スノウチニュース<№256> 2026年2月
【建築関連統計】
12月の鉄骨需要量は28万3,450トン(前年同月比1.3%増)
25年度(4月~12月)鉄骨需要量259万1,800トン(前年同期比7.8%減)
国土交通省が1月30日に発表した「建築物着工統計調査」による2025年12月着工総面積は、7,825千平方メートル(前年同月比2.6%減)となり、前年同月比では9ヵ月連続で減少となった。
建築主別は、▽公共建築物が292千平方メートル(同32.5%減)となり、同3ヵ月連続で減少。▽民間建築物は7,533千平方メートル(同0.9%減)となり、同9ヵ月連続で減少となった。
用途別は、▽居住建築物は5,063千平方メートル(同0.7%減)となり、同9ヵ月連続で減少。▽非居住建築物は2,761千平方メートル(同5.9%減)となり、同7ヵ月連続で減少となった。
構造別では、▽鉄骨造(S造)が2,813千平方メートル(同1.7%増)となり、同7ヵ月ぶりに増加。▽鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)が43千平方メートル(同36.1%減)となり、同3ヵ月連続で減少。▽鉄筋コンクリート造(RC造)が1,293千平方メートル(同13.4%減)となり、同2ヵ月連続で減少。▽木造(W造)が3,600千平方メートル(同0.9%減)となり、同9ヵ月連続で減少となった。
鉄骨系の需要換算では、▽S造は28万1,300トン(前年同月比1.7%増)となり、同7ヵ月ぶりに増加。▽SRC造は2,150トン(同35.8%減)となり、同3ヵ月連続で減少。鉄骨系合計では前月比26.1%増の28万3,450トン(同1.3%増)となった。
25暦年(1月~12月)の鉄骨需要量は、▽S造が338万1,800トン(前年同期比8.1%減)、▽SRC造が5万3,700トン(同27.4%減)となり、鉄骨系合計では343万5,500トン(同8.5%減)となった。
25年度(4月~12月)の鉄骨需要量は、▽S造が256万0,800トン(前年同期比6.8%減)、▽SRC造が3万1,000トン(同51.5%減)となり、鉄骨系合計では259万1,800トン(同7.8%減)となった。
24年12月-25年12月 鉄骨系需要量の推移
| 年/年度 | 月 | S造 | 前年比 | SRC造 | 前年比 | 鉄骨造計 | 前年比 |
| 2024年 | 12 | 276,500 | -13.8% | 3,350 | -18.3% | 279,850 | -13.8% |
| 2025年 | 1 | 249,600 | -21.4% | 8,100 | 153.2% | 257,700 | -19.6% |
| 2 | 266,800 | -10.2% | 8,350 | 204.3% | 275,150 | -8.3% | |
| 3 | 304,700 | -4.0% | 6,300 | 55.8% | 311,000 | -3.2% | |
| 2025年度 | 4 | 375,100 | -1.3% | 3,650 | -52.6% | 378,750 | -2.3% |
| 5 | 288,500 | 4.6% | 2,650 | -60.7% | 291,150 | 3.0% | |
| 6 | 266,700 | -15.0% | 3,150 | -35.7% | 269,850 | -15.3% | |
| 7 | 253,900 | -21.1% | 3,950 | 61.2% | 257,850 | -20.4% | |
| 8 | 263,700 | -3.5% | 1,650 | -83.8% | 265,350 | -6.4% | |
| 9 | 314,400 | -4.1% | 10,500 | 600.0% | 324,900 | -1.4% | |
| 10 | 293,700 | -0.6% | 1,800 | -89.4% | 295,500 | -5.5% | |
| 11 | 223,400 | -21.1% | 1,450 | -85.6% | 224,850 | -23.3% | |
| 12 | 281,300 | 1.7% | 2,150 | -35.8% | 283,450 | 1.3% | |
| 2025年度(4月-12月) | 計 | 2,560,800 | -6.8% | 31,000 | -51.5% | 2,591,800 | -7.8% |
| 2025暦年(1月-12月) | 計 | 3,381,800 | -8.1% | 53,700 | -27.4% | 3,435,500 | -8.5% |
(国土交通省調べ)
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日建連の12月総受注額約2兆3,547億円(前年同月比23.3%増)
民間工事は1兆5,314億5,800万円(同7.5%増)
日本建設業連合会(日建連)が1月29日に発表した会員企業92社の2025年12月分の受注工事総額は、2兆3,546億5,000万円(前年同月比23.3%増)となり、前年同月比では2ヵ月連続で増加となった。そのうち、▽国内工事が2兆2,098億9,300万円(同20.5%増)となり、同2ヵ月連続で増加、▽海外工事が1,447億5,700万円(同92.5%増)となり、同2ヶ月連続で増加となった。
▽民間工事が1兆5,314億5,800万円(同7.5%増)となり、同2ヵ月連続で増加、▽官公庁工事が6,691億2,500万円(同64.5%増)となり、同1ヵ月で増加となった。
民間工事の1兆5,314億5,800万円のうち、▽製造業が4,212億6,900万円(同11.3%増)となり、同1ヵ月で増加、▽非製造業が1兆1,101億8,900万円(同6.1%増)となり、同2ヵ月連続で増加となった。官公庁工事の6,691億2,500万円のうち、▽国の機関が3,229億6,200万円(同28.6%増)となり、同3ヵ月連続で増加、▽地方の機関が3,461億6,300万円(同122.2%増)となり、同1ヵ月で増加、▽その他が93億1,000万円(同260.0%増)となり、同2ヵ月連続で増加となった。
2025暦年(1月~12月)の受注総工事額は、21兆2,858億9,600万円(前年同期比12.5%増)となった。▽民間工事が15兆6,520億1,000万円(同17.7%増)、▽官公庁工事が4兆7,988億0,500万円(同1.2%減)、▽海外工事が7,982億1,400万円(同13.5%増)となった。
2025年度(4月~12月)の受注総工事額は、14兆8,000億7,200万円(前年同期比15.5%増)となった。▽民間工事が11兆1,718億0,300万円(同18.6%増)、▽官公庁工事が2兆9,857億6,000万円(同4.5%増)、▽海外工事が6,138億0,900万円(同28.2%増)となった。
日建連・地域ブロック別による12月の受注工事額では、▽北海道が818億5,200万円(前年同月比74.1%増)となり、前年同月比では2ヵ月連続で増加、▽東北が1,028億0,900万円(同50.4%減)となり、同2ヵ月連続で減少、▽関東が9,743億2,300万円(同11.9%増)となり、同4ヵ月ぶりに増加、▽北陸が1,132億6,000万円(同93.0%増)となり、同4ヵ月ぶりに増加となった。
▽中部が1,645億3,900万円(同53.2%増)となり、同2ヵ月連続で増加、▽近畿が4,958億1,200万円(同70.9%増)となり、同2ヵ月連続で増加、▽中国が625億6,500万円(同2.6%増)となり、同1ヵ月で増加、▽四国が297億1,000万円(同140.3%増)となり、同1ヵ月で増加、▽九州が1,850億2,800万円(同3.3%増)となり、同1ヵ月で増加となった。
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12月の粗鋼生産量は657.5万トン(前年同月比4.8%減)
11月の普通鋼建築用受注量39.2万トン(前年同月比0.6%減)
日本鉄鋼連盟が1月22日発表した2025年12月の銑鉄生産は、481.3万トン(前年同月比6.9%減)となり、前年同月比では9ヵ月連続で減少。粗鋼生産は、657.5万トン(同4.8%減)となり、同9ヵ月連続で減少となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が491.6万トン(同5.8%減)となり、同9ヵ月連続で減少。▽電炉鋼が165.8万トン(同1.8%減)となり、同2ヵ月ぶりに減少となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が507.4万トン(同5.9%減)となり、同2ヵ月連続で減少。▽特殊鋼が150.0万トン(同1.0%減)となり、同4ヵ月連続で減少となった。
熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は、585.9万トン(前年同月比4.9%減)となり、同2ヵ月ぶりに減少。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は459.8万トン(同5.8%減)となり、同2ヵ月ぶりに減少。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は126.0万トン(同1.2%減)となり、同3ヵ月連続で減少となった。
なお、11月の普通鋼鋼材用途別受注量は、▽建築用が39万1,815トン(前年同月比0.6%減)。うち▽非住宅が26万8,571トン(同3.4%減)、▽住宅が12万3,244トン(同6.2%増)となった。
用途別受注量の25暦年(1月~11月)では、▽建築用が436万4,698トン(前年同期比1.7%減)。うち▽非住宅が301万4,961トン(同2.4%減)、▽住宅が134万9,737トン(同0.04%減)となった。
25年度(4月~11月)では、▽建築用が318万1,126トン(前年同期比0.1%増)。うち▽非住宅が220万4,166トン(同0.8%減)▽住宅が97万6,960トン(同2.2%増)となった。
2025歴年の粗鋼生産は8,068万トン(前年比4.0%減)
前年比で4年連続の減少
日本鉄鋼連盟が1月22日に発表した2025暦年概況では、▽銑鉄生産は5,845.2万トン(前年比4.2%減)となり、前年比では4年連続で減少。▽粗鋼生産は8,067.9万トン(同4.0%減)となり、同4年連続で減少となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が5,983.1万トン(同3.4%減)、▽電炉鋼が2,084.9万トン(同5.5%減)となり、転炉鋼、電炉鋼ともに前年比では4年連続で減少となった。粗鋼合計に占める電炉鋼比率は25.8%と前年から低下となった。
鋼種別では、▽普通鋼が6,247.0万トン(同4.3%減)、▽特殊鋼が1,820.9万トン(同2.7%減)となり、普通鋼、特殊鋼ともに同4年連続で減少となった。▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は7,211.8万トン(同3.1%減)、同4年連続で減少となった。鋼種別にみると、▽普通鋼が5,679.1万トン(同3.5%減)、▽特殊鋼は1,532.7万トン(同1.5%減)となり、普通鋼、特殊鋼ともに同4年連続で減少となった。
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11月の溶接材料出荷量1万5,704トン(前年同月比1.5%増)
25年度(4月~11月)の総出荷量12万3,333トン(前年同期比1.2%増)
日本溶接材料工業会が発表した2025年11月の溶接材料出荷量は、1万5,704トン(前年同月比1.5%増)となり、前年同月比では6ヵ月連続で増加となった。
出荷量の主な品種は、▽ソリッドワイヤ(SW)が6,316トン(同3.8%増)となり、同2ヵ月連続で増加。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が5,3240トン(同0.3%増)となり、同4ヵ月連続で増加。▽被覆溶接棒が1,868トン(同2.2%減)となり、同1ヵ月で減少。その他を含む出荷量計では1万5,704トンとなった。
25暦年(1月~11月)の出荷量は、▽SWが6万8,626トン(前年同期比6.6%減)、▽FCWが5万9,063トン(同1.2%減)、▽溶接棒が1万6,791トン(同2.9%減)、その他を含む出荷量計での総出荷量は16万9,206トン(同1.9%減)となった。
25年度(4月~11月)の出荷量は、▽SWが4万9,992トン(前年同期比3.4%減)、▽FCWが4万3,057トン(同1.8%増)、▽溶接棒が1万1,804トン(同2.3%減)、その他を含む出荷量計での総出荷量は12万3,333トン(同1.2%増)となった。
財務省の貿易統計による溶接材料11月の▽輸出量は2,958トン(同9.7%減)となり、同7ヵ月ぶりに減少。▽輸入量は4,986トン(同4.5%増)となり、同4ヵ月ぶりに増加となった。
25暦年(1月~11月)の輸出量は3万0,948トン(前年同期比15.6%増)、輸入量は5万1,444トン(同1.6%減)となった。25年度(4月~11月)の▽輸出量は2万2,488トン(同18.2%増)▽輸入量は3万7,660トン(同0.9%減)となった。
24年11月-25年11月 溶接材料月別実績表
| 単位/トン | |||||||||
| 年/年度 | 月 | ソリッドワイヤ | 前年比 % |
フラックス入りワイヤ | 前年比 % |
被 覆 溶接棒 |
前年比 % |
合 計 | 前年比 % |
| 2024年 | 11 | 6,082 | -18.0% | 5,309 | -8.2% | 1,910 | 9.9% | 15,477 | -9.3% |
| 12 | 5,567 | -24.7% | 5,396 | -5.4% | 1,580 | -7.7% | 15,527 | -7.1% | |
| 2025年 | 1 | 5,902 | -11.2% | 5,259 | -1.7% | 1,242 | -26.9% | 14,605 | -8.9% |
| 2 | 6,191 | -14.3% | 5,268 | -9.4% | 1,947 | 9.4% | 15,193 | -9.3% | |
| 3 | 6,541 | -16.7% | 5,479 | -13.0% | 1,798 | 4.0% | 16,075 | -10.1% | |
| 2025年度 | 4 | 5,929 | -7.5% | 5,268 | -3.6% | 1,440 | -4.2% | 14,757 | -4.1% |
| 5 | 5,748 | -13.0% | 5,008 | -7.2% | 1,358 | -23.4% | 14,101 | -10.6% | |
| 6 | 6,421 | -5.5% | 5,387 | 4.4% | 1,415 | 9.7% | 15,742 | 2.5% | |
| 7 | 6,641 | -5.4% | 5,560 | -0.2% | 1,476 | 16.2% | 16,122 | 0.7% | |
| 8 | 5,696 | 8.0% | 5,018 | 3.9% | 1,444 | 20.3% | 14,305 | 8.7% | |
| 9 | 6,944 | -0.5% | 5,942 | 13.7% | 1,375 | -20.8% | 16,968 | 6.8% | |
| 10 | 6,297 | 8.2% | 5,550 | 3.8% | 1,428 | 2.3% | 15,634 | 5.4% | |
| 11 | 6,316 | 3.8% | 5,324 | 0.3% | 1,868 | -2.2% | 15,704 | 1.5% | |
| 2025年度(4月~11月) | 計 | 49,992 | -3.4% | 43,057 | 1.8% | 11,804 | -2.3% | 123,333 | 1.2% |
| 2025暦年(1月~11月) | 計 | 68,626 | -6.6% | 59,063 | -1.2% | 16,791 | -2.9% | 169,206 | -1.9% |
注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。
日本溶接材料工業会
【建築プロジェクト】
内幸町一丁目街区南地区再開発が描く未来
東京・内幸町一丁目街区南地区で進められている再開発計画は、都心の景観と都市機能を刷新し、新たな価値を創出するプロジェクトとして注目を集めています。霞が関や新橋に隣接する本エリアは、長年オフィス街として機能してきた一方で、建物の老朽化や土地利用の非効率性といった課題を抱えていました。今回の再開発は、こうした都市課題に正面から応える象徴的な取り組みです。
本プロジェクトは、2021年11月の都市計画決定を皮切りに本格的に始動しました。その後、2022年8月に事業計画の認可、同年12月には権利変換計画の認可を受け、段階的に計画が具体化してきました。こうした手続きを経て、2025年4月1日に新築工事へ着手し、2029年3月には施設建築物の竣工を予定しています。さらに、街区全体の整備が完了し、事業完了認可を迎えるのは2037年度以降を見込んでいます。
計画の中核をなすのが、タワー棟を中心とした大規模複合用途ビルの整備です。オフィス、商業、ホテル等を含む本建築物では、エアーフローウィンドウをはじめとする先進的な省エネルギー技術に加え、高断熱化された外皮や高効率な設備システムの導入が予定されています。これにより、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)において最高ランクである5☆を取得するとともに、「ZEB Ready」認証を取得する予定です。高さ200mを超え、延床面積約29万㎡規模の超高層大規模複合用途ビルとして、建築物全体評価での「ZEB Ready」認証取得は日本初となる見込みです。
ZEB Ready(ゼブ・レディ)とは、将来的なZEB(Net Zero Energy Building)の実現を見据えた先進的な建築物として、環境省が定義する認証区分です。ZEBは、建物で消費する一次エネルギー量を、省エネルギー性能の向上と再生可能エネルギーの活用によって、年間で概ねゼロにする建築物を指します。その中でZEB Readyは、再生可能エネルギーを除いた状態でも、基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減を達成することが求められる段階であり、高い環境性能を備えた建築物の入口に位置付けられています。
また、オフィス空間においては、最新の耐震性能に加え、柔軟で多様なワークスタイルに対応可能な設計が採用されます。テレワークやハイブリッド勤務の定着など、働き方が大きく変化する中で、こうした次世代型オフィスは都心再生の新たな指標となります。低層階には商業施設やカフェ、地域交流スペースが配置され、ビジネス機能にとどまらない街の賑わい創出にも貢献します。
都市計画の観点からは、交通利便性や歩行者動線の改善も重要なテーマです。内幸町は高いアクセス性を有する一方で、これまで歩行者空間の不足が指摘されてきました。再開発では、緑地や広場を取り入れた街区デザインにより、安全で快適な歩行環境を整備し、都市空間の質的向上を図ります。これは単なる建築更新にとどまらず、エリア全体の魅力を底上げする取り組みです。
さらに、本プロジェクトは経済的な波及効果も大きいものです。建設段階での雇用創出に加え、完成後には多様なテナント誘致による企業活動の活性化が期待されます。官庁街に近接する内幸町一丁目地区ならではの特性を活かし、官民連携や新産業の集積が進む可能性もあります。
一方で、都市再生においては、歴史的文脈や地域との関係性への配慮も欠かせません。本計画では、周辺景観との調和や公共空間の活用、地域と連携した取り組みも重視されており、長期的な視点に立った持続可能な都市づくりが進められています。
内幸町一丁目街区南地区の再開発は、単なる大規模ビル開発ではありません。環境性能、都市機能、事業の段階的な進行、そして地域との共生を総合的に捉えたプロジェクトとして、東京の都心再生の方向性を示す存在です。完成の暁には、先進的で環境に配慮した新たな都市景観とともに、多様な人々が集い、活動する魅力的な街が誕生します。
【時論・公論】
黒船の時代も、令和の今も──地震の国の節分
安政二年十月二日(西暦1855年11月11日)、江戸は大地震に襲われました。のちに「安政の大地震」と呼ばれるこの災害では、死者が1万人を超え、江戸の町は大混乱に陥りました。大火も発生し、町の多くが焼け野原となったと言われています。
当時の人々の心をさらに重くしていたのは、地震そのもの以上に、時代の不穏さでした。ペリー率いる黒船の来航以来、欧米列強の脅威が現実味を帯び、幕府の威信は揺らいでいました。安政の大地震が起きたその年も、諸外国との条約交渉が続き、政局は騒然としていました。「これは天が幕府に怒っているのではないか」という声まであがっていたといいます。こうした不安はやがて政治運動へと変わり、尊王攘夷の思想が高まり、倒幕の動きが加速し、明治維新という歴史的大転換へとつながっていきました。まさに安政の大地震は、日本が一つの時代を終え、次の時代へ移り変わる只中で起きた出来事だったのです。
そのような混乱の中でも、節分になると人々は豆をまきました。「鬼は外、福は内」の声が家々から響き、煎った豆が門口へと撒かれます。節分は本来、立春の前日に行われる行事で、旧暦では新年の始まりにも重なる“年越し”のような役割を持つものでした。災厄を祓い、新たな福を呼び込む大切な儀式だったのです。
大地震の翌年の節分は、特に多くの人々にとって切実な祈りの場となったことでしょう。家族を失い、家を失った人々が「今年こそよい年になりますように」と豆をまき、そばをすすり、ささやかな福を願ったと想像されます。その冬には「鯰絵(なまずえ)」と呼ばれる地震除けの護符や錦絵が爆発的に流行し、町中で売られました。巨大な鯰を退治する武士や神仏が描かれたその絵には、災いの原因に形を与え、それを祓おうとする庶民の切なる願いが込められていました。
──時代は変わりました。しかし、私たちが抱く不安のかたちは、案外変わっていないのかもしれません。
2025年12月8日夜、青森県東方沖を震源とするマグニチュード7.5前後の強い地震が発生し、八戸市では震度6強を観測しました。この地震を受けて、気象庁と内閣府は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を運用開始以来初めて発表しました。これは、青森から北海道の三陸沖を含む想定巨大地震域で、平常時に比べて大きな地震の発生確率が相対的に高まっている可能性を示し、今後1週間ほどは注意が必要であることを知らせるものです。
この情報は地震を「予測」するものではありませんが、冬という厳しい条件も相まって、防災用品の点検や避難経路の確認など、日頃の備えを見直す大きなきっかけとなりました。
そして、こうした不安は太平洋側だけのものではありません。
年明け早々、島根県・鳥取県を中心とする山陰地方でも地震が相次ぎ、正月の静けさがまだ残る夜に、不意の揺れが人々を現実へと引き戻しました。
日本海側は比較的地震が少ない、という漠然としたイメージを抱いていた人ほど、「まさか、ここで」という思いを強くしたことでしょう。
家の中の物音に身構え、スマートフォンの緊急速報に耳を澄まし、家族の安否を確かめる──その一つひとつの行動は、江戸の町で大地震に遭った人々が感じた動揺と、決して遠いものではありません。地域も時代も異なれど、「次はいつ揺れるのか」という不安は、同じ形で私たちの胸に忍び寄ります。
また、私たちが常に頭の片隅に置かざるを得ない存在として、太平洋側の大規模な沈み込み帯「南海トラフ」があります。南海トラフ巨大地震は過去にも周期的に発生しており、今後30年以内に大きな地震が起きる可能性が高いとされています。青森沖、山陰、そして南海トラフ──点在する揺れの記憶は、列島全体が一つの地震帯の上にあるという現実を、改めて私たちに突きつけています。
こうした広域的なリスクを踏まえ、政府や専門家は、備蓄や避難計画の共有、防災訓練の重要性を繰り返し呼びかけています。けれど同時に、人の心は理屈だけでは落ち着きません。不安を不安のまま抱え込まぬために、私たちはいつの時代も、祈りや習わしにすがってきました。
「鬼」とは、外からやって来る異国の脅威なのでしょうか。突如として人々を襲う地震や病なのでしょうか。それとも、揺れが来るかもしれないと身構え続ける、私たち自身の心の中の恐れなのかもしれません。いずれにせよ、豆をまくという小さな所作には、「この悪い流れを断ち切りたい」「どうか平和な年になりますように」と願う、時代を超えた祈りが込められています。
今もなお、節分の日には「鬼は外、福は内」の声が響きます。
災いの続く年ほど、その声がひときわ力強く聞こえる気がします。私たちが豆をまくその手には、江戸の人々と同じように、見えない不安を祓い、見えない希望を呼び込もうとする、ささやかな祈りが宿っているのです。
【SEI】






