スノウチニュース<№193> 令和2年11月


【鉄骨需要月別統計】
9月の鉄骨需要量は34万9,350トン(前年同月比1.8%減)
20年度上期は210万3,250トン(前年同期比15.2%減)

国土交通省が10月30発表した「建築物着工統計調査」の2020年9月着工総面積は10,068千平方メ―トル(前年同月比2.4%減)となり、前年同月対比で13ヵ月連続減となった。10,000千平方メートル超えは5ヵ月ぶりとなった。
▽建築主別は、▽公共建築物が630千平方メートル(同49.3%増)の大幅増となり、同4ヵ月連続増となった。▽民間建築物は9,439千平方メートル(同4.6%減)となり、同13ヵ月連続減となった。
▽用途別は、▽居住建築物は6,177千平方メートル(同7.9%減)となり、同13ヵ月連続減となった。▽非居住建築物は3,891千平方メートル(同7.8%増)となり、同6ヵ月ぶりの増加となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は3,368千平方メートル(同3.3%減)となり、同6ヵ月連続減となった。▽SRC造は251千平方メートル(同64.8%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。
一方、▽RC造は2,100千平方メートル(同14.5%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽W造は4,283千平方メートル(同9.3%減)となり、同14ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は33万6,800トン(前年同月比3.3%減)となり、同6ヵ月連続減となった。SRC造は1万2,550トン(同64.8%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。鉄骨造計では前月比18.8%増の34万9,350トン(同1.8%減)となった。
20年度上期(4~9月)でのS造は205万7,200トン(前年度同期比15.7減)、SRC造は4万6,050トン(同22.1%増)となり、鉄骨造合計では210万0,3250トン(同15.2%減)となった。

20年11月鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2019/9 348,300 -18.1 7,600 29.7 355,900 -17.5
10 367,900 -16.4 5,500 -44.5 373,400 -17.1
11 351,000 -14.8 4,650 12.4 355,650 -14.6
12 402,700 2.6 5,400 -29.7 408,100 2.0
2020/1 266,100 -296 5,350 65.9 271,450 -28.8
2 300,000 -20.2 10,400 56.6 310,400 -18.9
363,800 7.5 4,950 7.7 368,750 7.5
352,800 -10.0 9,950 0.0 362,750 -10.0
352,000 -6.4 13,800 88.2 365,800 -4.6
6 364,800 -14.8 4,250 12.9 369,050 -14.6
7 354,300 -25.5 2,100 -67.8 356,400 -26.1
8 291,400 -30.8 2,700 7.8 294,100 -30.6
336,800 -3.3 12,550 64.8 349,350 -1.8
暦年計(20/1~9) 2,982,000 -16.6 66,050 26.5 3,048,050 -15.0
年度計(20/4~9) 2,052,100 -15.7 45,350 22.1 2,097,450 -15.2

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連の9月総受注額約1兆2,900億円(前年同月比6.2%減)
民間工事は8,882億8,100万円(同14.4%減)
20年度上期総受注額約5兆4,897億円(前年同期比10.1%減)

日本建設業連合会(日建連)が11月4日に発表した会員企業95社の2020年9月受注工事総額は1兆2,900億6,000万円(前年同月比6.2%減)となり、前年同月比では1ヵ月で減少に転じた。うち民間工事は8,882億8,100万円(同14.4%減)となり、同1ヵ月で減少となった。官公庁工事は3,901億7,500万円(同32.1%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加となった。
国内工事は1兆2,806億3,300万円(同4.3%減)となり、同1ヵ月で減少となった。民間工事の8,882億8,100万円のうち、▽製造業が1,871億8,000万円(同12.5%増)となり、同4ヵ月ぶりの増加となった。▽非製造業は7,011億0,100万円(同19.6%減)となり、同1ヵ月で減少となった。
官公庁工事の3,901億7,500万円のうち、▽国の機関が2,386億4,500万円(同26.5%増)の大幅増となり、同4ヵ月連続増となった。▽地方の機関は1,515億3,000万円(同41.8%増)の大幅増となり、同3ヵ月ぶりの増加となった。▽その他が21億7,700万円(同53.4%減)の大幅減となり、同5ヵ月連続減となった。▽海外工事は94億,700万円(同74.0%減)の大幅減となり、同6ヵ月連続減となった。
20年度上期(4~9月)の総受注総額が5兆4,896億5,500万円(前年度同期比10.1%減)となった。民間工事が3兆7,421億5,600万円(同15.5%減)、官公庁工事が1兆6,556億6,400万円(同16.6%増)、海外工事が658億6,100万円(同71.4%減)となった。
一方、9月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道366億8,400万円(前年同月比7.0%増)となり、前年同期比では1ヵ月で増加に転じた。▽東北993億1,400万円(同89.0%増)の大幅増となり、同3ヵ月連続増となる。▽関東5,464億1,100万円(同16.5%減)となり、同1ヵ月で減少となった。▽北陸446億円4,600万円(同3.6%減)となり、同3ヵ月連続減となった。
▽中部1,034億1,900万円(同5.2%減)となり、同4ヵ月連続減となる。▽近畿2,343億3,400万円(同1.3%減)の微減となり、同3ヵ月ぶりの減少となる。▽中国894億7,900万円(同23.9%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となる。▽四国342億1,000万円(同25.5%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となる。▽九州921億2,300万円(同12.3%減)となり、同3ヵ月連続減となった。


国交省発表の20年度建設投資見通し
前年度比3.4%減、民間落込み6年ぶり減少

国土交通省は先月12日に発表した2020年度の建設投資が前年度比で3.4%下回る63兆1,600億円になるとの見通しとした。内訳は政府建設投資が25兆6,200億円(前年度比3.1%増)、民間建設投資が37兆5,400億円(同7.3%減)。民間投資の落ち込みが響き6年ぶりの減少となった。建築補修(改装・改修工事)投資額を計上した15年度以降で3番目の低水準となる。
国交省の建設投資見通しは、国内建設市場の規模とその構造を明らかにする目的で1960年度から集計・公表している。国内の全建設活動を対象に出来高ベースの投資額を推計している。昨年6月改定の産業連関表を踏まえ建築補修(改装・改修工事)投資額を2015年度から新たに計上している。
20年度建設投資額のうち、民間建設投資の内訳は▽民間住宅建設投資が15兆0,200億円(同8.1%減)、▽非住宅建築と土木を合算した民間非住宅建設投資が16兆2,500億円(同7.2%減)、▽民間建築補修(改装・改修工事)投資が6兆2,700億円(同5.9%減)となった。
建築投資額は38兆1,500億円(同6.5%減)。うち▽住宅が15兆6,900億円(同7.7%減)で、政府投資は6,700億円(同3.1%増)、民間投資は15兆0,200億円(同8.1%減)。▽非住宅は14兆7,600億円(同6.3%減)で、政府投資は4兆1,800億円(同3.0%増)、民間投資は10兆5,800億円(同9.5%減)となる見込みとなっている。
建築補修(改装・改修工事)は7兆7,000億円(同4.3%減)で、うち政府投資は1兆4,300億円(同2.9%増)、民間投資は6兆2,700億円(同5.9%減)となった。建築補修投資額は増加傾向にある。


建設経済研の21年度分の減少幅拡大に
20・21年度建設投資見通し上方修正

建設経済研究所と経済調査会は、国土交通省の建設見通しに次いで28日、建設投資見通しを発表した。2020、21年度投資総額は7月の前回調査と比べ、20年度分で4兆1,400億円増の63兆8,500億円(前年度比2.3%減)、21年度分が1兆9,300億円増の58兆1,800億円(同8.9%減)に上方修正した。いずれも国交省が12日に公表した建設投資見通しを反映して数値が全体的に上がったものの、21年度の前年度比はマイナス幅が広がっている。
政府建設投資は20年度が前回(7月調査)と比べ3兆4,000億円増の25兆8,800億円(同4.1%増)、21年度が2兆6,300億円増の21兆2,000億円(同18.1%減)と予測した。
20年度は18年度1次・2次補正予算、19年度補正予算、20年度予備費を踏まえて推計した。21年度は防災・減災、国土強靱化3ヵ年緊急対策(18~20年度)などの特別計上枠の臨時・特別の措置を除くため、前年度比で二桁の減少を見込んでいる。また、21年度は地方自治体は新型コロナウイルス対策費に投じ、税収も落ち込んでいるため公共事業費は大幅に減るとみている。
民間非住宅建設投資(建築・土木)は、20年度16兆7,900円(前年度比4.1%減)、21年度16兆4,200億円(同2.2%減)。建築補修(改装・改修工事)投資は、20年度7兆4,800億円(同7.1%減)、21年度7兆5,500億円(同0.9%増)と予測した。
一方、住宅着工戸数は、20年度79.7万戸(同9.8%減)、21年度80.2万戸(同0.7%増)と推計した。80万戸を下回れば、リーマン・ショック後の09年度(77.5万戸)以来となる。投資額は、20年度15兆1,200億円(同7.5%減)、21年度14兆4,600億円(同4.4%減)と予測している。


9月粗鋼生産量648.6万トン(前年同月比19.3%減)
20年度上期3,709万トン(前年同期比26.8%減)
8月普通鋼建築用46.2万トン(前年同月比1.2%増)

日本鉄鋼連盟が10月22日に発表した2020年9月の 銑鉄生産は464.8万トン(前年同月比24.0%減)となり、前年同月比では7ヵ月連続減となった。20年度上期(4~9月)では2,728.5万トン(同29.4%減)となった。粗鋼生産は648.6万トン(同19.3%減)となり、同7ヵ月連続減。上期(4~9月)3,709.5万トン(同26.8%減)となった。
年度上期の粗鋼生産量が4千万トンを下回ったのは1968年度の3,318万トン以来の52年ぶりとなった。リーマン・ショック後の09年度上期でも4,334万トンと4千万トンを維持しており、20年度は最低水準となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が475.3万トン(同21.6%減)となり、同7ヵ月連続減。▽電炉鋼が173.2万トン(同12.4%減)となり、同19ヵ月連続減となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が514.9万トン(同16.7%減)となり、同7ヵ月連続減。▽特殊鋼が133.6万トン(同28.1%減)となり、同22ヵ月連続減となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は584.9万トン(同16.0%減)となり、同27ヵ月連続減。上期(4~9月)3,318.5万トン(同25.0%減)となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は469.2万トン(同14.3%減)となり、同7ヵ月連続減少。上期2,724.0万トン(同21.5%減)となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は115.7万トン(同22.5%減)となり、同21ヵ月連続減。上期594.5万トン(同37.8%減)となった。
一方、8月の普通鋼鋼材用途別受注量では、建築用は46万2,144トン(同1.2%増)となった。うち▽非住宅用が32万4,242トン(同5.7%増)、▽住宅用が13万7,902トン(同7.8%減)となった。なお、20年度4~8月の建築用は234万9,850トン(同3.7%減)、▽非住宅が168万0,509トン(同0.7%減)、▽住宅が66万9,341トン(同10.6%減)となった。

*8月溶接材料の出荷量1万5,027トン(前年同月比22.7%減)
20年度4~8月の出荷量8万1,267トン(前年同月比23.3%減)

日本溶接材料工業会が発表した2020年8月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)は、生産量は1万3,828トン(前年同月比24.6%減)となり、前年同期比では8ヵ月連続減となった。出荷量は1万5,0277トン(同22.7%減)となり、同8ヵ月連続減となった。在庫量は1万9,479トン(同16.4%増)となり、同8ヵ月連続増となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が5,064トン(前年同月比31.4%減)となり、前年同月比では8ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が4,921トン(同17.6%減)となり、同8ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が1,615トン(同24.6%減)となり、同7ヵ月連続減となった。その他を含む生産量計は1万3,828トン(同24.6%減)となった。
出荷量の主品種は▽SWが5,306トン(同31.7%減)となり、同8ヵ月連続減となった。▽FCWが5,363トン(同17.6%減)となり、同8ヵ月連続減となった。▽溶接棒が1,914トン(同11.6%減)となり、同8ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計は1万5,027トン(同22.7%減)となった。新型コロナウイルス感染により建築鉄骨向け出荷減が大きく影響している。
在庫量の主品種は▽SWが7,172トン(同58.5%増)となり、同8ヵ月連続増となった。▽FCWが6,974トン(同10.4%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽溶接棒が3,031トン(同4.7%増)となり、同6ヵ月連続増となった。その他を含む在庫量計は1万9,479トン(同16.4%増)となった。
なお、20年度(4~8月)の生産量は7万9,888トン(前年同期比23.8%減)となり、出荷量は8万1,267トン(同23.3%減)の減少となった。

19年8月-20年8月 溶接材料月別実績表

単位/トン

出荷量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆  溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 8 7,378 1.5 5,974 ▼14.6 2,141 ▼3.3 18,338 ▼4.9
(令和元年) 9 9,015 9.4 7,963 17.8 2,421 ▼1.2 22,364 9.4
10 9,078 ▼4.6 8,090 ▼1.1 2,322 9.8 22,375 ▼2.5
11 9,024 ▼0.6 7,343 ▼6.2 2,033 ▼18.8 21,212 ▼5.3
12 8,743 10.3 7,263 2.1 2,370 13.8 21,431 8.7
2020年 1 7,398 ▼6.7 6,637 ▼3.3 2,085 10.7 18,771 ▼7.2
(令和2年) 2 7,379 ▼13.6 6,788 ▼8.0 1,940 ▼20.7 18,359 ▼14.2
3 7,645 ▼18.6 7,251 ▼2.4 2,320 ▼1.1 19,613 ▼11.5
4 7,398 ▼16.6 6,773 ▼7.7 2,146 ▼11.8 18,724 ▼11.8
5 5,519 ▼29.1 5,340 ▼28.0 1,726 ▼28.7 14,746 ▼28.7
6 5,008 ▼44.6 6,744 ▼3.8 2,121 ▼14.6 16,417 ▼21.8
7 5,091 ▼48.7 6,212 ▼26.0 2,227 ▼3.8 16,173 ▼31.5
8 5,064 ▼31.4 4,921 ▼17.6 1,615 ▼24.6 13,828 ▼24.6
2020年度(4~8) 28,080 ▼34.2 29,990 ▼17.0 9,835 ▼16.6 79,888 ▼23.8

 

出荷量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆 溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 8 7,767 2.6 6,512 ▼7.4 2,164 ▼3.0 19,448 ▼1.1
(令和元年) 9 8,885 13.8 7,560 10.2 2,367 ▼6.1 21,597 7.2
10 8,512 ▼11.1 7,792 3.7 2,136 ▼11.1 21,348 ▼6.5
11 8,012 ▼10.8 7,315 ▼3.2 2,054 ▼13.4 20,246 ▼7.9
12 8,596 8.9 7,498 4.1 2,519 31.1 21,619 9.5
2020年 1 7,000 ▼8.4 6,941 ▼6.7 2,224 ▼8.4 18,758 ▼11.9
(令和2年) 2 6,925 ▼18.4 6,517 ▼8.7 2,032 ▼8.6 17,821 ▼13.9
3 7,379 ▼17.3 6,910 ▼7.1 2,128 ▼12.7 18,771 ▼13.6
4 6,627 ▼21.7 6,470 ▼24.8 1,885 ▼24.8 17,491 ▼18.3
5 5,569 ▼33.1 6,037 ▼17.5 2,024 ▼13.0 15,949 ▼23.5
6 5,581 ▼35.3 6,525 ▼12.3 2,162 ▼10.8 16,863 ▼20.2
7 4,948 ▼48.2 5,948 ▼26.9 2,044 ▼11.1 15,937 ▼31.0
8 5,306 ▼31.7 5,363 ▼17.6 1,914 ▼11.6 15,027 ▼22.7
2020年度(4~8) 28,031 ▼34.4 30,343 ▼17.6 10,029 ▼14.5 81,267 ▼23.3

日本溶接材料工業会

 

【建築プロジェクト】
東京・中野区新庁舎は竹中工務店JVで来夏着工
S造・一部RC・SRC造、11階建・4万7,390平米

東京都中野区の新庁舎は、中野サンプラザ西側の場所から北西の旧中野体育館跡地に移転新築する。このほど実施設計の中間まとめを公表した。
庁舎建設地(同区中野4-2-139)にある既存施設の解体工事を2020年12月に着手する。敷地面積約8,557平方メートル、建築面積約4,097平方メートル。実施設計・施工は竹中工務店・協永建設・明成建設工業・武蔵野建設産業・INA新建築研究所JVが担当。基本設計は日本設計が担当した。
新庁舎の規模はS造・一部RC造・SRC造、地下2階・地上11階建・塔屋1層建て、延べ床面積約4万7,390平方メートル。21年6月の実施設計完了、7月の本体着工、24年2月完成し、5月開設をめざす。
新庁舎の1階は東西どちらからも視認性を高くし、明るく開放的なエントランスホール。 エントランスからエレベーターとエスカレーターの位置がわかりやすく、2、3階の窓口フロアへ移動しやすくなる。 イベントスペースは、集いの広場側を開放可能なつくりとし、集いの広場と一体的な利用が可能となる空間となる。
2階は戸籍、転入・転出、税、国民健康保険などに関する窓口を配置。 1階からの吹き抜けを設置することで、イベントスペースと立体的なつながりのある空間。 エレベーター、エスカレーター、階段から見通しが良く、開放的な空間。3階は子どもや福祉に関する窓口を配置し、 来庁者が落ち着いた環境で手続・相談を行えるように、プライバシーに配慮したブース型 窓口カウンター。
4階は社会福祉協議会・町会連合会などの執務室と来庁者対応窓口。5階は東京都第三建設事務所などの執務室。6階は区長室などの執務室、防災 関係諸室及び会議室。 災害時は災害対策本部となる。7階から9階はフロアの南北に諸室。10階は議場・委員会室・議員室・区議会事務局 。11階は議場の傍聴席など。


連載/あの人、この人(7)
技能者目線のMさん

1988年3月にK出版東京本社勤務となった。週刊の鉄構業界紙のほかに鉄骨・橋梁など鋼構造分野の月刊技術誌を創刊することになり、その編集責任者に就く。かつて技術誌、住宅誌に携わったが編集長としての経験はなく、創刊準備は編集スタッフの一員になるK記者が温めていた編集・企画アイデアを中心に編集コンセプトや執筆者、読者ターゲット、紙面構成・形体などを決めることなった。
鋼構造の世界は範囲が広いため、編集のメインを建築鉄骨・鋼製橋梁の分野に絞ることになる。K記者曰く、「鉄骨建築が中心になるならM建設のM技術課長に逢いましょう。鉄骨構造の技術者で、工場製作・品質管理では一番の若手実力者。編集面でもさまざまに協力して頂ける」と言われ、大阪時代に若干面識があったM課長と久々に会って、鉄構雑誌発行のお知恵を拝借することになった。
この時のMさんは私と同い年の47歳。建築工事の豊富な経験と鉄骨ファブリケーター業界に精通しており、最強のアドバイス役となった。そのMさんの感想は「鉄構専門誌となれば、読者層のターゲットは鉄骨ファブ。しかもその大半は中小規模業者とすれば、鉄骨ディテール解説や溶接部の品質管理、製品検査、工程管理とコスト問題などを分かりやすく解説する。古参の職人や技能者には頑な自己流や間違った仕法を続けている。こうした層に手軽に読める内容、体裁でないと読者が増えない。
不良鉄骨問題もあり(発行は)グットタイミング。建築行政や設計事務所、ゼネコン技術者も関心を持ち、特に鉄骨副資材企業も読む」と、編集内容や購読層までを熱く語ってくれた。格調高い技術誌でなく、手軽に読める技術誌づくりは大いに参考となった。
この時期のファブ業界は、欠陥鉄骨問題や韓国製の輸入鉄骨に揺れていた時だけに、Mさんも鉄構専門誌の発刊に期待を寄せていた。建築界を俯瞰し、問題の欠陥鉄骨や輸入鉄骨は、「元請け(ゼネコン)も下請け(ファブ)ともコストパーフォーマンスから発しており、(欠陥鉄骨は)一概にファブだけを責められない。輸入鉄骨の延長線には必ず商社介入となる」の見解を示し、問題点を峻別する。早速、創刊号の対談をお願いし、以来ことがあると相談できるブレーンのひとりになる。
Mさんは九州大学建築学科を67年卒、M建設に入社し、建築技術部配属。技術研修でY橋梁製作所に出向し、溶接技術などを体得したことから溶接にも精通し、「鉄骨品質は溶接品質でもある」と溶接施工と溶接部検査を重視し、鉄骨構造と溶接品質の問題から溶接・検査・溶接技能者検定など各種団体に積極的に関与・協力を惜しまない人柄。
豪放磊落なMさんだけに豊かな人脈づくりとなる。何かを成す時は「この指とまれ」式で、来る者を拒まず。不良鉄骨の要因のひとつにエンドタブによる施工不良が問題になって以来、エンドタブの施工講習の重要性を痛感し「溶接部の品質確保には、エンドタブや裏当て材の正しい使用法と溶接技量が欠かせない」としてエンドタブ・メーカーを包括した日本エンドタブ協会を設立。「エンドタブ施工講習会(実技・管理者)」を開催し技能者、管理技術者の育成に努める。
この施工講習会の実技では、受講者個々の試験体のビード外観やUTによる内部欠陥などを親身になって解説・指導。技能者目線で接するMさんの姿勢には受講者も納得する。「溶接人は、正直者として接する。アーク現象と何パスも溶融する状態は本人しか分からない。性善説が前提でなければ溶接施工は任せられない。溶接技能資格者は、人間性が問われる職業」の信条が技能者目線となる。
一方、鉄骨建築の高層・超高層化、ハイブリット構造化、大規模・変形化に伴い構造鋼材の高級化や多様化による鉄骨品質の重要性が増し、その品質検証が求められている。そこでMさんは構造技術者、ゼネコン管理技術者、非破壊検査技術者(いずれも個人会員)らの重層構成によるAWA認証機構(Architectural Warrant Authority/建築構造物検証第三者機構)を設立。中立・公平・透明性の高い重層技術者のプロ(卓越者)を認証・登録し、建築主などの立場から検証(モニタリング)する。プロの検証結果に瑕疵があれば賠償責任保険で担保するシステムを構築した。
Mさんは、品質管理について「品質の合否を好き嫌いで判定すれば『混乱の極み』である。誰が検査しても合否基準が一定でなければならない。判定する技術者自身の研鑽が求められる。施工する技能者、管理する技術者は、知らない、分からないではプロではない。真贋を極める努力がほしい」とプロ根性に徹した技術者・技能者の育成と研鑽に務めている。
そのため、Mさんは技能者・技能者向けの出版にも関わる。上級技術者のための『建築鉄骨外観検査の手引き』を96年7月に初版発刊。この手引書は好評で、何版も重ねられ専門書のベストセラーに。さらに阪神大震災後の99年1月に『巨大地震と無力な技術者』を発刊する。この本は、Mさんの持論を具現化するため編集委員長を務め、「過去の巨大地震と阪神大震災での建築倒壊からみて、建築技術者はいかに無力だったか」との反省を込め、鉄骨建築への対応策を啓蒙するものとなった。
技術者の真髄をMさんは、「本阿弥 光悦(ほんあみ・こうえつ/江戸初期の書家・陶芸家・芸術家・刀剣鑑定家)のような直観力で、真贋判定できる能力を持つことが究極の技術者であると思っているが、光悦の直観力は不可能にしても蓄積されたノウハウと鍛えられた洞察力があれば的確な判断はできるもの。目利きになるには努力と集中できる胆力が欠かせない。そのためには基礎知識と常に学ぶ姿勢が必要と力説」する。洞察力と判断力、努力と胆力とは、ゴルフ上達の鍛錬法の極意にもつながる。
最後に、Mさんは多くの人が知るゴルフ達人。若い時から、その日のコースの特徴やスコア、気づいたスイングなどを克明に大学ノートに記録し、数十冊に及ぶという。その神髄は、几帳面さと探求心がシングルを維持してきた。そんなMさんも来年の立春過ぎに傘寿となる。私とはジャンルが異なるものの「建築鉄骨の世界」では共通する思考性や共有する友人・知人もあって今でも続いている。
現在も創設した2団体の代表として建築構造技術者、ゼネコン・鉄骨製作管理者、溶接技術者・技能者らのため、日々努力と胆力を惜しまずに続けている。誠に敬服します。
【中井 勇】