スノウチニュース<№196> 令和3年2月


【鉄骨需要月別統計】
12月鉄骨需要量は34万9,300トン(前年同月比11.6%減)
20歴年1~12月は404万5,400トン(前年同月比14.4%減)

国土交通省が1月29日発表した「建築物着工統計調査」の2020年12月着工総面積は9,179千平方メ―トル(前年同月比11.4%減)となり、前年同月対比で16ヵ月連続減となった。10,000千平方メートル割れは今年に入って10回となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が324千平方メートル(同25.6%減)の大幅減となり、同3ヵ月連続減となった。▽民間建築物は8,855千平方メートル(同10.7%減)となり、同16ヵ月連続減となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,614千平方メートル(同9.0%減)となり、同16ヵ月連続減となった。▽非居住建築物は3,565千平方メートル(同14.8%減)となり、同3ヵ月連続減となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造は3,380千平方メートル(同16.1%減)となり、同9ヵ月連続減となった。▽SRC造は226千平方メートル(同109.7%増)となり、同2ヵ月連続増となった。
一方、▽RC造は1,238千平方メートル(同24.5%減)の大幅減となり、同3ヵ月連続減となった。▽W造は4,281千平方メートル(同3.7%減)となり、同17ヵ月連続減となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は33万8,000トン(前年同月比16.1%減)となり、同9ヵ月連続減となった。SRC造は1万1,300トン(同109.7%増)となった。鉄骨造計では前月対比11.1%増加の34万9,300トン(前年同月比14.4%減)となった。
20年度(4~12月)では、S造が302万3,600トン(前年度同期比15.1減)、SRC造が7万7,000トン(同44.6%増)となり、鉄骨造合計では310万0,600トン(同14.4%減)となった。
なお、20暦年(1~12月)のS造が394万8,400トン(前年比15.2%減)、SRC造が9万7,000トン(同43.2%増)となり、鉄骨造合計では404万5,400トン(同14.4%減)となった。

19年12月-20年12月 鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
2019/12 402,700 2.6 5,400 -29.7 408,100 2.0
2020/1 266,100 -296 5,350 65.9 271,450 -28.8
2 300,000 -20.2 10,400 56.6 310,400 -18.9
363,800 7.5 4,950 7.7 368,750 7.5
352,800 -10.0 9,950 0.0 362,750 -10.0
352,000 -6.4 13,800 88.2 365,800 -4.6
6 364,800 -14.8 4,250 12.9 369,050 -14.6
7 354,300 -25.5 2,100 -67.8 356,400 -26.1
8 291,400 -30.8 2,700 7.8 294,100 -30.6
336,800 -3.3 12,550 64.8 349,350 -1.8
10 328,400 -10.7 5,350 -2.9 333,750 -1.8
11 300,000 -14.5 14,300 208.6 314,300 -11.6
12 338,000 -16.1 11,300 109.7 349,300 -14.4
暦年計(20/1~12) 3,948,400 -15.2 97,000 43.2 4,045,400 -14.4
年度計(20/4~12) 3,023,600 -15.1 77,000 44.6 3,100,600 -14.2

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連12月総受注額約1兆5,568億円(前年同月比2.5%減)
民間工事は1兆765億700万円(前年同月比10.4%減)

日本建設業連合会(日建連)が1月27日に発表した会員企業95社の2020年12月受注工事総額は1兆5,568億3,100万円(前年同月比2.5%減)となり、3ヵ月ぶりに1兆円台に戻ったものの、前年同月比では4ヵ月連続減となった。うち民間工事は1兆0,765億0,700万円(同10.4%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。官公庁工事は4,494億8,900万円(同39.2%増)の大幅増となり、同4ヵ月連続増となった。
国内工事は1兆5,283億2,200万円(同0.3%増)の微増となり、同3ヵ月連続増となった。民間工事の1兆,0,765億0,700万円のうち、▽製造業が2,272億0,200万円(同17.7%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽非製造業は8,493億0,500万円(同15.7%減)となり、同4ヵ月連続減となった。
官公庁工事の4,494億8,900万円のうち、▽国の機関が2,594億1,700万円(同32.3%増)の大幅増となり、同7ヵ月連続増となった。▽地方の機関は1,900億7,200万円(同50.0%増)の大幅増となり、同4ヵ月連続増となった。▽その他が23億2,600万円(同1,854.6%増)の超大幅増となり、同3ヵ月連続増となった。▽海外工事は285億0,900万円(同60.4%減)の大幅減となり、同9ヵ月連続減となった。
20年度(4~12月)の総受注総額が8兆9,872億7,400万円(前年度同期比7.6%減)となった。民間工事が6兆1,449億8,200万円(同12.7%減)、官公庁工事が2兆6,379億7,800万円(同22.0%増)、海外工事が1,706億4,600万円(同65.3%減)となった。
一方、12月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道322億2,500万円(前年同月比13.1%減)となり、前年同期比で2ヵ月連続減となった。▽東北901億0,500万円(同6.4%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。▽関東6,811億9,900万円(同8.6%減)となり、同1ヵ月で減少となった。▽北陸524億円2,400万円(同15.6%減)となり、同2ヵ月連続減となった。
▽中部1,157億9,200万円(同3.3%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽近畿3,481億8,300万円(同47.7%増)の大幅増となり、同3ヵ月連続増となった。▽中国469億4,800万円(同106.6%増)の大幅増となり、同3ヵ月ぶりの増加となった。▽四国233億1,400万円(同21.1%減)となり、同1ヵ月で減少に転じた。▽九州1,381億1,400万円(同24.6%減)となり、同2ヵ月連続の大幅減となった。


12月粗鋼生産753万トン(前年同月比3.3%減)
11月普通鋼建築用47.7万トン(前年同月比8.9%減)

日本鉄鋼連盟が1月22日に発表した2020年12月の銑鉄生産は564.1万トン(前年同月比6.2%減)となり、前年同月比で10ヵ月連続減となり、粗鋼生産は752.6万トン(同3.3%減)となり、同10ヵ月連続減となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が571.8万トン(同3.7%減)となり、同10ヵ月連続減。▽電炉鋼が180.8万トン(同2.2%減)となり、同22ヵ月連続減となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が579.5万トン(同3.1%減)となり、同10ヵ月連続減。▽特殊鋼が173.2万トン(同月比4.0%減)となり、同25ヵ月連続減となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は653.7万トン(同3.3%減)となり、同30ヵ月連続減となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は508.6万トン(同4.0%減)となり、同10ヵ月連続減となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は145.1万トン(同0.9%減)となり、同24ヵ月連続減となった。
一方、11月の普通鋼鋼材用途別受注量では、建築用は47万7,473トン(同8.9%減)となった。うち▽非住宅用が33万2,638トン(同10.7%減)となり、▽住宅用が14万4,835トン(同4.7%減)となった。
20年度4~11月の建築用は389万1,106トン(同0.4%減)となった。▽非住宅が275万8,115トン(同1.0%増)となり、▽住宅が113万2,991トン(同3.5%減)となった。


2020年粗鋼生産8,319.4万トン(前年比16.2%減)
世界粗鋼生産18億6,400万トン(前年比0.9%減)

2020暦年の銑鉄生産は6,160万トン(前年比17.8%減)となり、前年対比で6年連続減となった。粗鋼生産は8,319.4万トン(同16.2%減)となり、同6年連続減となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が6,204.7万トン(同17.3%減)となり、同4年連続減。▽電炉鋼が2,114.7万トン(同13.0%減)となり、同2年連続減となった。
鋼種別では▽普通鋼が6,575.7万トン(同13.0%減)となり、同7年連続の減少。▽特殊鋼が1,743.7万トン(同26.4%減)となり、同2年連続減となった。
熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)生産は7,376.1万トン(同15.9%減)となり、同6年連続減となった。鋼種別にみると、▽普通鋼が5,924.9万トン(同13.5%減)となり、同7年連続減。▽特殊鋼は1,451.2万トン(同24.4%減)となり、同2年連続減となった。
世界鉄鋼協会による2020暦年(1~12月)の世界粗鋼生産量は18億6,400万トンとなり、前年比で0.9%減少した。主な国の生産量は、▽中国10億0,530万トン(前年比5.2%増)▽インド9,960万トン(同10.6%減)▽日本8,320万トン(同16.2%減)▽ロシア7,340万トン(同2.6%増)。
▽米国7,270万トン(同17.2%減)▽韓国6,710万トン(同6.0%減)▽トルコ3,580万トン(同6.0%増)▽ドイツ3,570万トン(同10.0%減)▽ブラジル3,100万トン(同4.9%減)▽イラン2,900万トン(同13.4%増)となっている。


11月溶接材料の出荷量1万7,209トン(前年同月比15.0%減)
20年4-11月出荷量13万1,952トン(前年同期比22.0%減)

日本溶接材料工業会が発表した2020年11月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)は、生産量は1万7,429トン(前年同月比17.8%減)となり、前年同期比では11ヵ月連続減となった。出荷量は1万7,209トン(同15.0%減)となり、同11ヵ月連続減となった。在庫量は1万9,083トン(同2.0%減)となり、同11ヵ月ぶりの減少となった。
生産量の主品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が7,528トン(前年同月比16.6%減)となり、前年同月比では11ヵ月連続減となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が5,855トン(同20.3%減)となり、同11ヵ月連続減となった。▽被覆アーク溶接棒が1,845トン(同9.2%減)となり、同10ヵ月連続減となった。その他を含む生産量計は1万7,429トン(同17.8%減)となった。
出荷量の主品種は▽SWが7,171トン(同10.5%減)となり、同11ヵ月連続減となった。▽FCWが5,929トン(同18.9%減)となり、同11ヵ月連続減となった。▽溶接棒が1,814トン(同11.7%減)となり、同11ヵ月連続減となった。その他を含む出荷量計は1万7,209トン(同15.0%減)となった。
在庫量の主品種は▽SWが7,159トン(同14.9%増)となり、同11ヵ月連続増となった。▽FCWが7,063トン(同0.3%増)となり、同6ヵ月連続増となった。▽溶接棒が2,637トン(同15.0%減)となり、同3ヵ月連続減となった。その他を含む在庫量計は1万9,083トン(同2.0%増)となった。
20年度4-11月の生産量は13万0,177トン(前年同期比23.8%減)となり、出荷量は13万1,952トン(同22.0%減)となった。なお、財務省の貿易統計による11月の溶接材料輸入量は5,060トン(前年同月比23.7%減)となり、輸出量は2,547トン(同5.5%減)となった。

19年11月-20年11月 溶接材料月別実績表

単位/トン

生産量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆  溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 11 9,024 ▼0.6 7,343 ▼6.2 2,033 ▼18.8 21,212 ▼5.3
(令和元年) 12 8,743 10.3 7,263 2.1 2,370 13.8 21,431 8.7
1 7,398 ▼6.7 6,637 ▼3.3 2,085 10.7 18,771 ▼7.2
2020年 2 7,379 ▼13.6 6,788 ▼8.0 1,940 ▼20.7 18,359 ▼14.2
(令和2年) 3 7,645 ▼18.6 7,251 ▼2.4 2,320 ▼1.1 19,613 ▼11.5
2020年度 4 7,398 ▼16.6 6,773 ▼7.7 2,146 ▼11.8 18,724 ▼11.8
5 5,519 ▼29.1 5,340 ▼28.0 1,726 ▼28.7 14,746 ▼28.7
6 5,008 ▼44.6 6,744 ▼3.8 2,121 ▼14.6 16,417 ▼21.8
7 5,091 ▼48.7 6,212 ▼26.0 2,227 ▼3.8 16,173 ▼31.5
8 5,064 ▼31.4 4,921 ▼17.6 1,615 ▼24.6 13,828 ▼24.6
9 57,17 ▼36.6 6180 ▼22.4 1775 ▼26.7 15,740 ▼29.6
10 6,997 ▼22.9 5,829 ▼27.9 1,728 ▼25.6 17,120 ▼23.5
11 7,528 ▼16.6 5,855 ▼20.3 1,845 ▼9.2 17,429 ▼17.8
2020年度     (4-11月) 48,322 ▼30.7 47,854 ▼19.6 15,183 ▼18.2 130,177 ▼23.8

 

出荷量
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比 フラックス入りワイヤ 前年比 被 覆 溶接棒 前年比 合 計 前年比
2019年 11 8,012 ▼10.8 7,315 ▼3.2 2,054 ▼13.4 20,246 ▼7.9
(令和元年) 12 8,596 8.9 7,498 4.1 2,519 31.1 21,619 9.5
1 7,000 ▼8.4 6,941 ▼6.7 2,224 ▼8.4 18,758 ▼11.9
2020年 2 6,925 ▼18.4 6,517 ▼8.7 2,032 ▼8.6 17,821 ▼13.9
(令和2年) 3 7,379 ▼17.3 6,910 ▼7.1 2,128 ▼12.7 18,771 ▼13.6
2020年度 4 6,627 ▼21.7 6,470 ▼24.8 1,885 ▼24.8 17,491 ▼18.3
5 5,569 ▼33.1 6,037 ▼17.5 2,024 ▼13.0 15,949 ▼23.5
6 5,581 ▼35.3 6,525 ▼12.3 2,162 ▼10.8 16,863 ▼20.2
7 4,948 ▼48.2 5,948 ▼26.9 2,044 ▼11.1 15,937 ▼31.0
8 5,306 ▼31.7 5,363 ▼17.6 1,914 ▼11.6 15,027 ▼22.7
9 6,374 ▼28.3 6,089 ▼19.5 2,028 ▼14.3 16,579 ▼23.2
10 6,710 ▼21.2 5,757 ▼26.1 1,900 ▼11.0 16,897 ▼23.2
11 7,171 ▼10.5 5,929 ▼18.9 1,814 ▼11.7 17,209 ▼15.0
2020年度 (4-11) 48,286 ▼29.1 48,118 ▼19.1 15,771 ▼13.7 131,952 ▼22.0

日本溶接材料工業会

【建築プロジェクト】
うめきた2期地区開発、南・北街区の高層賃貸ビル3棟
S造・SRC造・RC造、39階など、総延床約38万平米

うめきた2期地区開発事業(大阪市北区大深町地内、敷地面積約9万1,150 平方メートル)は、三菱地所、大阪ガス都市開発、オリックス不動産、関電不動産開発、積水ハウス、竹中工務店、阪急電鉄、三菱地所レジデンス、うめきた開発SPC(大林組)9者による大規模開発の南街区複合ビル(賃貸棟)2棟の建設工事は昨年12月に着工し、北街区複合ビル(同)はこの2月に着工する。
同開発地は貨物操作場跡地で、JR大阪駅をはじめ7駅13路線が利用可能できる高いアクセス性を誇り、国内外への広域アクセス起点となる関西国際空港、大阪国際空港、新幹線・新大阪駅へのアクセス性も高いため、周辺の開発計画とともに国内外からますます注目を集めるエリアへとなる。
今回着工する▽南街区複合ビルは、西棟はS造・一部RC造・SRC造、地下3階・地上39階建て、東棟は同、地下3階・地上28階建ての2棟構成。2棟の総延べ床面積約31万4,250平方メートル(オフィス10万9.000平方メートル、2ホテルの730室、会議室、商業施設など)となる。
設計は三菱地所設計・日建設計・大林組・竹中工務店JVが担当し、施工は大林組・竹中工務店JVが担当する。工期は20年12月~24年11月の完成予定。
▽北街区複合ビルは、S造・一部RC造・SRC造、地下3階・地上26階建て、同6万5,421平方メートル(ホテル300室、都市型スパ、商業施設)となる。設計は日建設計・竹中工務店JVが担当し、施工は大林組・竹中工務店JVが担当する。工期は21年2月着工~24年4月完成予定。
なお、▽南街区分譲棟(構造未定)、地下2階・地上51階建て、延べ床面積約9万3,000平方メートル、▽北街区分譲棟(同)、地下1階・地上47階建て、同8万5,000平方メートルの設計・施工者は未定。
うめきた地区再開発は、オフィス、ホテル、中核機能、商業施設、都市公園、住宅を有し、うめきた地区から大阪、関西、そして世界をリードするまちづくりになる。


連載/あの人、この人(10)
ロウ付を教示してくれたF氏

1963年に神田佐久間町の総合出版・S社に入社。日刊・週刊業界紙、月刊専門誌や専門書籍を発刊するユニークな出版社。1948年11月に操業し、日本溶接協会の機関紙的な形で「Yニュース」「Y技術誌」、溶接叢書の発行から業容拡大し、LPG業界紙・誌や電子科学誌・機械エンジニア誌、住宅誌、ゴルフ誌・ボウリング誌、美術誌、旅行業界紙などアメーバのように触手を広げてきた。
私は、第1出版局の溶接業界紙「Yニュース」に配属され、主力担当は溶材商となった。その担当先に東京・港区のT溶材があった。T溶材は高圧ガスを扱わず、溶接・溶断機器や溶接材料が主体の都内屈指の溶材商社。M電器産業の半自動溶接機の販売代理店では全国上位の実績を誇った。
今回の登場人物は、そのT溶材・営業部長がF氏との出会い。新規分野としてM貴金属製の「銀ロウ」「リン銅ロウ」(JIS表示は「ろう」、ハンダは「はんだ」)の拡販に力を入れていた頃、新任記者の訪問に40代半ばの温厚そうなF部長は「これからの溶接界は、低温接合のロウ付やハンダ付の分野に関心が集まる。これからいろいろ教えるので、君は紙面で協力してほしい」と言われて以来、ロウ付知識とロウ付業界の新規開拓する気持ちになった。
はじめに、ロウ付技法について「ロウ付は古代からあるもので、母材(金属、非金属)同士を溶かすことなく接合する技法。ロウ材は、銀(Ag)・金(Au)・銅(Cu)など融点が低い金属がロウ材料となる。施工は、母材を極力密着させ、隙間にフラックスを塗布し、バーナーでロウ材を溶かす。毛細管現象で隙間にロウが濡れ広がって接合。ガラス板2枚を合わせ水につけると、ガラス隙間の上部まで水が上がってくる。この現象を応用した技法。ハンダ付(Pb)の融点は250度だが、ロウ付は450度超程度」と、F部長は分かりやすく説明してくれた。
また、用途や施工法については「銀ロウ、金ロウなどは装身具や工芸品、眼鏡などで使用されており、リン銅ロウ材は、リン(P)と銅との合金で、ルームエアコンの熱交換器の銅パイプ接合に使用されている。ロウ付施工の量産化には、自動ガス加熱、コンベア式ガス・電気雰囲気炉、高周波加熱、真空炉装置などがある。溶接とは異なり、母材を溶かさないため歪みがないため航空・宇宙、電気・電子、車両・自動車などの分野の異種金属や非金属接合などの需要拡大が期待される」とF部長が解説し、「今、隙間産業だが、成長する業界。若い人が取り組むのに最適」と諭され、意気に燃えた。
取材して分かったことは、ロウ材を製造する企業は主に貴金属商。金地金が大蔵省の管理下にあり輸出入ができなく、三菱や住友系鉱山で産出された金地金は大蔵省が認可した貴金属商社十数社(日本金地金流通協会)にしか与えていない。その代表格がT貴金属工業(日本橋茅場町)、I金属興業(内神田)、T本店(神田鍛冶町)、M貴金属(北上野)、M金銀店(銀座)、K貴金属(鳥越)、T貴金属(日暮里)などと、日本貴金属協同組合。大阪はH貴金属工業、Ⅰ貴金属化工など数社であった。
M貴金属は、F部長の紹介もあり取材はスムーズだったが、他の会社では貴金属を扱うためか総務部長、営業部長が応対するなど業界紙に対するガードは厳しかった。
一方、量産施工のロウ付装置メーカーは、ガス機器・高周波・雰囲気炉メーカーの取材は新たな媒体として好意的に対応して頂けた。特に雰囲気炉のY電機工業(板橋区)や高周波のD興業(大田区)には予想以上の協力を得るなど順調な取材となった。特集号ではロウ材メーカーや機器メーカーの広告出稿もあって定期企画となった。F氏の進言が実現し、特集企画は社内でも評価されていた。
65年に日本溶接協会が専門部会に「貴金属ろう部会」を設ける。元都立工業奨励館技師長のT理事から「君の取材活動も(部会設立)に貢献している」と褒められ、また日本規格協会のN部長も「特集号はロウ工場のJIS認定に役立った」と言われ、嬉しかった。これもF氏の教示と支えがあればこその評価であった。そのF氏は後にM貴金属の支援でロウ付材料・機器専門のD溶材(品川区)を興す。
私は、ロウ付分野の開拓を評価され、69年4月に「Y技術」誌に異動し、課長次長職となる。その年の4月に「Yニュース」主催による米国溶接学会 (AWS) の「国際ロウ付会議」出席と「AWSウエルディングショー」参観やAWS関係者との懇談や溶接・ロウ付関係企業訪問の20日間にわたる視察団(団長Y電機工業社長、団員はD溶材社長F氏以下、ロウ付関係者ら18人)と通訳の外報部長と私が特派記者として随行することになる。ロウ付業界開拓の論功行賞だと思い、F氏に大いに感謝した。
羽田空港を出発前にウエルディグショー、ロウ国際会議も、全米トラック協会のストライキで中止なったが予定通りに渡米。AWSはニューヨーク・ワシントン・シカゴ・サンフランシスコなどの各都市での溶接機メーカーやロウ材メーカーの工場見学にAWS役員・技術者らが同行し、懇親パーティーを開き、その模様を三大ネットワークのCBSや地元新聞の取材などもあり、盛大なおもてなしを受けた。
F氏と出会って以来、指導・支援して頂き、さらに一緒に米国の地でロウ付の日米懇談の場に居ることが夢のようだった。F氏は「米国と較べたら日本のロウ付技術は遅れている。広い産業でロウ付が使用される。米国技術に学びながら技術革新する」と語り、米国視察の感想であった。
72年にF氏のD溶材はM貴金属に吸収され、さらに米国H&ハーマンとの日本法人となる。F氏はロウ部門の役員として手腕を発揮する。私はその後、幾つかの媒体を経て、76年に退職する。請われて溶接業界紙のW新聞東京支社に移り、再びロウ業界に携わるも、すでにF氏はリタイアしていた。
80年春に大阪本社に異動し、M・H&ハーマント大阪営業所のH所長(F氏直属の部下)と再会し、大阪での取材活路と人脈を広げる手助けをして頂いた。古代から綿々と続いてきたロウ接合の原理は単純ながらも奥が深く、その施工法に新たな技術革新が起きている。電気・電子、航空・宇宙、自動車など部品の精細を求める産業には欠かせない接合技法。その国内屈指のロウ材メーカーのM・H&ハーマントはF氏の意思を受け継いでいる。
【中井 勇】