スノウチニュース<№208> 令和4年2月


【鉄骨需要月別統計】
12月鉄骨需要量は44万5,600トン(前年同月比27.6%増)
21暦年(1~12月)は462万3,000トン(前年同期比14.3%増)

国土交通省が1月31日発表した「建築物着工統計調査」の2021年12月着工総面積は10,655千平方メ―トル(前年同月比16.1%増)となり、前年同月比では3ヵ月連続増となった。10,000千平方メートル超は3ヵ月連続増となった。
▽建築主別は、▽公共建築物が331千平方メートル(同2.2%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽民間建築物は10,324千平方メートル(同16.6%増)となり、同10ヵ月連続増となった。
▽用途別は、▽居住建築物は5,909千平方メートル(同5.3%増)となり、同10ヵ月連続増となった。▽非居住建築物は4,747千平方メートル(同33.1%増)となり、同3ヵ月連続増となった。
▽構造別は、▽鉄骨建築のS造が4,274千平方メートル(同26.5%増)となり、同12ヵ月連続増となった。▽SRC造が364千平方メートル(同61.4%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加に転じた。
一方、▽RC造が1,629千平方メートル(同31.6%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽W造が4,301千平方メートル(同0.5%増)となり、同9ヵ月連続増となった。
▽鉄骨需要換算では、S造は42万7,400トン(前年同月比26.5%増)となり、同12ヵ月連続増となった。SRC造は1万8,200トン(同61.4%増)の大幅増となり、同1ヵ月で増加となった。鉄骨造の合計では前月比26.1%増の44万5,600トン(前年同月比27.6%増)となった。
なお、21暦年(1~12月)では、S造が453万0,900トン(前年同期比14.8%増)、SRC造が9万2,100トン(同5.1%減)となり、鉄骨造の合計では462万3,000トン(同14.3%増)となった。
21年度(4~12月)では、S造が352万7,600トン(前年同期比16.7%増)、SRC造が7万4,500トン(同3.2%減)となり、鉄骨造の合計では360万2,100トン(同16.2%増)となった。

20年11月-21年11月 鉄骨需要量の推移

年/月 S造(TON) 前年比(%) SRC造(TON) 前年比(%) 鉄骨造計(TON) 前年比(%)
12 338,000 -16.1 11,300 109.7 349,300 -14.4
2021/1 318,300 19.6 4,800 -10.0 323,100 19.0
2 308,300 2.8 9,900 -4.9 318,200 2.5
3 376,700 3.6 2,900 -41.4 379,600 2.9
4 387,600 8.3 6,000 -39.7 393,600 8.5
5 387,600 10.1 5,400 -62.6 393,000 7.4
6 412,400 13.0 8,750 106.2 421,150 14.1
7 370,100 4.5 5,450 158.8 375,550 5.4
8 322,500 10.7 3,700 37.0 326,200 11.9
9 342,700 1.7 8,950 -29.0 351,650 0.7
10 530,900 61.7 11,000 105.3 541,900 65.7
11 346,400 15.4 7,050 -50.5 353,450 12.5
12 427,400 26.5 18,200 61.4 445,600 27.6
暦年計(21/1~12) 4,530,900 14.8 92,100 -5.1 4,623,000 14.3
年度計(21/4~12) 3,527,600 16.7 74,500 -3.2 3,602,100 16.2

(国土交通省調べ)

 

【建築関連統計】
日建連12月総受注額1兆6,714億円(前年同月比7.4%増)
民間工事1兆2,975億3,800万円(前年同月比20.5%増)
21暦年総受注量16兆0,674億5,800万円(前年比11.6%増)

日本建設業連合会(日建連)が1月27日に発表した会員企業95社の2021年12月受注工事総額は1兆6,714億1,200万円(前年同月比7.4%増)となり、前年同月比で4ヵ月連続増となった。うち民間工事が1兆2,975億3,800万円(同20.5%増)となり、同4ヵ月連続増となった。官公庁工事が3,297億8,600万円(同26.6%減)となり、同1ヵ月で減少となった。
国内工事が1兆6,291億1,700万円(同6.6%増)となり、同4ヵ月連続増となった。民間工事の1兆2,975億3,800万円のうち、▽製造業が2,097億0,200万円(同7.7%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。▽非製造業が1兆0,878億3,600万円(同28.1%増)となり、同4ヵ月連続増となった。
官公庁工事の3,297億8,600万円のうち、▽国の機関が1,898億5,900万円(同26.8%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。▽地方の機関が1,399億2,700万円(同26.4%減)の大幅減となり、同1ヵ月で減少となった。▽その他が17億9,300円(同22.9%減)の大幅減となり、同6ヵ月連続減となった。▽海外工事が422億9,500万円(同48.4%減)となり、同1ヵ月で増加となった。
21年度(4~12月)の受注工事総額が10兆0,143億8,100万円(前年同期比11.4%増)となり、▽民間工事額が7兆1,764億2,800万円(同16.8%増)、▽官公庁工事が2兆5,859億7,600万円(同2.0%減)、▽海外工事が2,343億3,000万円(同37.3%増)となった。
なお、21暦年(1~12月)の受注工事総額が16兆0,674億5,800万円(前年同期比11.6%増)となり、▽民間工事額が11兆2,494億2,200万円(同14.6%増)、▽官公庁工事が4兆3,670億1,100万円(同8.1%増)、▽海外工事が4,190億9,400万円(同16.4%減)となった。
一方、12月の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道が653億2,500万円(前年同月比102.7%増)の大幅増となり、前年同期比で5ヵ月連続増となった。▽東北が773億4,900万円(同14.2%減)となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。▽関東が6,889億8,700万円(同1.1%増)の微増となり、同3ヵ月ぶりの増加となった。▽北陸が385億3,900万円(同26.5%減)の大幅減となり、同3ヵ月ぶりの減少となった。
▽中部が1,296億7,800万円(同12.0%増)となり、同7ヵ月連続増となった。▽近畿が3,081億5,000万円(同11.5%減)となり、同2ヵ月連続減となった。▽中国が520億2,600万円(同10.8%増)となり、同3ヵ月連続増となった。▽四国が453億5,700万円(同94.5%増)の大幅増となり、同8ヵ月連続増となった。▽九州が2,237億0,400万円(同62.0%増)の大幅増となり、同2ヵ月連続増となった。
なお、21暦年(1~12月)の地域ブロック別の受注工事額は、▽北海道が6,206億4,100万円(前年比3.9%増)、▽東北が1兆2,411億4,300万円(同13.7%増)、▽関東が7兆0,357億8,100万円(同16.4%増)、▽北陸が4,956億1,400万円(同10.5%減)、▽中部が1兆5,674億8,500万円(同19.2%増)、▽近畿が2兆5,168億5,400万円(同3.0%減)、▽中国が5,842億7,700万円(同6.4%増)、▽四国が2,870億5,000万円(同31.7%増)、▽九州が1兆2,995億3,600万円(同38.9%増)。


12月粗鋼生産793.4万トン(前年同月比5.4%増)
11月普通鋼建築用49.9万トン(同4.6%増)

日本鉄鋼連盟は1月22日に発表した2021年12月の▽銑鉄生産は590.7万トン(前年同月比4.7%増)となり、前年同月比では10ヵ月連続増となった。▽粗鋼生産は793.4万トン(同5.4%増)となり、同10ヵ月連続増となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が593.9万トン(同3.9%増)となり、前年同月比では10ヵ月連続増加。▽電炉鋼が199.5万トン(同10.3%増)となり、同10ヵ月連続増なった。鋼種別生産では、▽普通鋼が611.9万トン(同5.5%増)となり、同10ヵ月連続増。▽特殊鋼が181.6万(同4.9%増)となり、同10ヵ月連続増となった。
▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)の生産は689.4万トン(同5.4%増)となり、同10ヵ月連続増となった。▽普通鋼熱間圧延鋼材の生産は544.0万トン(同6.9%増)となり、同10ヵ月連続の増加となった。▽特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は145.4万トン(同0.3%増)となり、同12ヵ月連続の増加となった。
一方、11月の普通鋼鋼材用途別受注量では、▽建築用は49万9,667トン(同4.6%増)となった。うち▽非住宅が36万6,297トン(同4.4%増)、▽住宅が13万3,970トン(同7.9%減)となった。
21年度4~11月の建築用は403万8,611トン(前年同期比3.8%増)となった。うち▽非住宅が295万5,623トン(同7.2%増)となり、▽住宅が108万2,988トン(同4.4%減)となった。
21暦年1~11月の建築用は546万0,205トン(前年同期比1.0%増)となった。うち▽非住宅が401万3,022トン(同1.3%増)となり、▽住宅が144万7,183トン(同0.4%増)となった。


21暦年の粗鋼生産9,633万トン(前年比15.8%増)

日本鉄鋼連盟は1月22日に発表した2021暦年(1~12月)の概況では、▽銑鉄生産 は7,034.4万トン(前年比14.2%増)となり、▽粗鋼生産 は9,633.3万トン(同15.8%増、)となり、共に7年ぶりの増加となった。
炉別生産では、▽転炉鋼が7,194.5万トン(同16.0%増)となり、前年比で5年ぶりの増加。▽電炉鋼が2,438.8万トン(同15.4%増)となり、同3年ぶりの増加となった。粗鋼合計に占める電炉鋼比率は25.3%と前年から0.1ポイント低下した。
鋼種別では▽普通鋼が7,390.9万トン(同12.4%増)となり、同8年ぶりの増加。▽特殊鋼が2,242.5万トン(同28.6%増)となり、同3年ぶりの増加となった。▽熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)生産は8,438.1万トン(同14.4%増)となり、同7年ぶりの増加となった。鋼種別にみると、▽普通鋼が6,583.0万トン(同11.1%増)となり、同8年ぶりの増加。▽特殊鋼は1,855.1万トン(同27.9%増)となり、同3年ぶりの増加となった。


11月溶接材料の出荷量1万8,290トン(前年同月比6.3%増)
21年度(4~11月)の出荷量14万4,980トン(前年同期比9.9%増)

日本溶接材料工業会が発表した2021年11月の溶接材料実績(生産・出荷・在庫)では、生産量は1万9,137トン(前年同月比9.8%増)の前年同月比で7ヵ月連続増となり、出荷量は1万8,290トン(同6.3%増)の同8ヵ月連続増となった。在庫量は1万5,972トン(同16.3%減)となり、同13ヵ月連続減となった。
生産量の主な品種は▽ソリッドワイヤ(SW)が7,922トン(同5.2%増)の同8ヵ月連続増。▽フラックス入りワイヤ(FCW)が6,390トン(同9.1%増)となり、同2ヵ月連続増となった。▽被覆アーク溶接棒が2,419トン(同31.1%増)の大幅増となり、同4ヵ月連続増となった。その他を含む生産量計では1万9,137トン(同9.8%増)となった。
出荷量の主な品種は▽SWが7,460トン(同4.0%増)の同8ヵ月連続増。▽FCWが5,935トン(同0.1%増)の同2ヵ月連続増となった。▽溶接棒が2,295トン(同26.5%増)の大幅増となり、同8ヵ月連続増となった。その他を含む出荷量計では1万8,290トン(同6.3%増)となった。
在庫量の主な品種は▽SWが5,638トン(同21.2%減)の同11ヵ月連続減。▽FCWが5,613トン(同20.5%減)の同12ヵ月連続減。▽溶接棒が2,949トン(同11.8%増)となり、同2ヵ月連続増となった。その他を含む在庫量計では1万5,972トン(同16.3%減)となった。
21年度(4~11月)の生産量は14万3,931トン(前年度同期比10.6%増)となり、出荷量は14万4,980トン(同9.9%増)となった。また、21暦年(1~11月)の生産量は19万4,047トン(前年同期比3.8%増)となり、出荷量は19万6,155トン(同4.7%増)となった。
なお、財務省の貿易統計による11月の輸出量は3,100トン(前年同月比21.7%増)となり、輸入量は7,164トン(同41.5%増)となり、輸出入とも高い水準となった。

20年11月-21年11月 溶接材料月別実績表

生産量 単位/トン
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比% フラックス入りワイヤ 前年比% 被覆溶接棒 前年比% 合計 前年比%
2020年 11 7,528 ▼16.6 5,855 ▼20.3 1,845 ▼9.2 17,429 ▼17.8
12 6,637 ▼24.1 5,297 ▼27.1 1,660 ▼30.0 16,014 ▼25.3
2021年 1 6,028 ▼18.5 5,346 ▼20.2 1,803 ▼13.5 15,419 ▼17.9
2 6,781 ▼8.1 5,644 ▼16.9 1,982 2.2 16,888 ▼8.0
3 7,372 ▼3.6 5,788 ▼20.2 2,157 ▼7.0 17,809 ▼9.2
2021年度 4 7,426 4.2 6,047 ▼10.7 2,145 0.0 18,294 ▼2.3
5 7,329 32.8 5,302 ▼0.7 1,994 15.5 16,917 14.7
6 7,947 58.7 6,488 ▼3.8 2,432 14.7 19,285 17.5
7 7,688 51.0 5,861 ▼5.7 2,217 ▼0.4 17,975 11.1
8 6,372 25.8 4,586 ▼6.8 2,406 49.0 15,365 11.1
9 7,512 31.4 6,133 ▼0.8 2,404 35.4 18,148 15.3
10 7,822 11.8 6,430 10.3 2,471 43.0 18,810 9.9
11 7,922 5.2 6,390 9.1 2,419 31.1 19,137 9.8
2021年度(4~11月) 60,018 24.2 47,237 ▼0.1 18,488 21.8 143,931 10.6
2021年(1-11月) 80,199 13.4 64,015 ▼0.7 24,430 13.5 194,047 3.8

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

出荷量 単位/トン
年/年度 ソリッドワイヤ 前年比% フラックス入りワイヤ 前年比% 被覆溶接棒 前年比% 合計 前年比%
2020年 11 7,171 ▼10.5 5,929 ▼18.9 1,814 ▼11.7 17,209 ▼15.0
12 7,143 ▼16.9 5,615 ▼25.1 1,918 ▼23.9 17,022 ▼21.3
2021年 1 6,932 ▼1.0 5,878 ▼15.3 1,838 ▼17.4 17,053 ▼9.1
2 6,847 ▼1.1 5,689 ▼12.7 1,988 ▼2.2 16,851 ▼5.4
3 7,266 ▼1.5 5,404 ▼21.8 1,907 ▼10.4 17,271 ▼8.0
2021年度 4 7,996 20.7 6,561 1.4 2,497 32.5 19,700 12.6
5 6,937 24.6 5,865 2.8 2,146 6.0 17,016 6.7
6 7,981 43.0 6,340 ▼2.8 2,216 2.5 18,997 12.7
7 7,353 48.6 5,557 ▼6.6 2,101 2.8 17,173 7.8
8 6,834 28.8 5,535 3.2 2,345 22.5 16,871 12.3
9 8,231 29.1 6,063 ▼0.4 2,154 6.2 18,815 13.5
10 7,377 9.9 6,320 9.8 2,373 24.9 18,118 7.2
11 7,460 4.0 5,935 0.1 2,295 26.5 18,290 6.3
2021年度(4~11月) 60,169 24.6 48,176 0.1 18,127 14.9 144,980 9.9
2021年(1-11月) 81,214 16.7 65,147 ▼0.5 23,860 7.7 196,155 4.7

注:合計はその他の溶接材料を含めたもの。

日本溶接材料工業会

 

【建築プロジェクト】
日本橋1丁目中地区再開発C街区は清水建設が着工
S造・一部RC・SRC造・52階、延床約37万平米

東京都中央区の日本橋を跨ぐ首都高速道路の地下化の工事着工を目前にし、日本橋周辺の再開発が盛んになっている。その一つが三井不動産、野村不動産の超高層複合ビルの「日本橋1丁目中地区再開発・C街区」(東京都中央区日本橋1丁目30~32)の建設は12月に清水建設で着工した。
建設規模は、S造・一部RC造・SRC造、地下5階・地上52階・塔屋2層建て(高さ284メートル)、延べ床面積約36万8,700平方メートルの複合ビル。設計は日建設計の担当。2026年3月の完成予定。
地下1~4階に商業施設、5~7階にMICE施設、7~8階にビジネス支援施設、10階は低層スカイロビー、11~20階は低層オフィス、22階に高層スカイロビー、23~38階は高層オフィス、39~47階はホテル(197室)、48~51階に居住施設(約100戸)を配置する。地上3階と地下1階に連絡通路の接続と、D街区内の改修工事(リニューアル工事)を予定し、既存商業施設とも融合した新たな商業空間を創出する。
一方、A街区は建築家安井武雄の設計により1930年に完成した「日本橋野村ビル旧館」の改修・増築工事となる。貴重な近代建築物として中央区指定有形文化財に指定されている日本橋野村ビル旧館の風格ある外観を保存活用する。規模はSRC造・RC造・S造、地下1階・地上4階建て、延べ床面積約5,100平方メートル。設計は日建設計、施工は大林組が担当。
B街区は商業施設と住宅建設の複合ビル。C街区の超高層ビルと地上3階レベルでデッキ接続し、日本橋川沿いの賑わいにつながる商業空間と共同住宅約50戸を予定。建設規模はRC造・一部S造、地下2階・地上7階建て、同6,500平方メートル。設計は日建設計、施工は清水・錢高組が担当。

連載/あの人、この人(22)
鉄骨業界に功績のH教授

中堅鉄骨ファブで構成する全国鉄構工業連合会(全構連)は、1973年7月に4,678社の任意団体で発足。76年通商産業省の法人認可、81年建設省による認可法人の共管となる。法人改正で2000年7月全国鉄構工業協会(全構協)に組織変更され、来年の7月に創立50周年を迎える。全構協は設立から今日まで多くの建築・鋼構造学者や構造技術者らの支援があって、大きく発展してきた。
創成期(70~80年代)の鉄骨需要量は年間600~700万トンと右高上り拡大すると共に新規参入の増加に伴い鉄骨市場は群雄割拠化し、無秩序な過当競争の様相となり、不良鉄骨や欠陥品質問題も多発する。全構連の運営や事業活動に様々な要望や意見が交わされる。そうした中、<青年将校と囁かれる>30、40代の鋼構造系の学識者や設計者・構造技術者らの存在も大きかった。
青年将校と言われる所以は、鉄骨業界の改善策などを<歯に衣着せぬ>進言に対して、「頼もしい応援団であるが、その期待に応えられなければとの不安感がある」(全構連幹部)と吐露していた。その首頭が千葉工業大学のH教授で、業界を慮っての苦言ながらある種、恐持ての存在でもあった。
そのH教授は、1941年2月19日生まれの東京出身。66年東京工業大学大学院修士課程修了、69年同大学博士課程修了。同年千葉工業大学講師、72年同大学助教授、82年同大学教授。日本建築学会の鋼構造部会委員やJASS6(鉄骨工事)委員、日本建築センターの鋼構造評定委員などを務める。「鉄骨の構造設計」など著書、鉄骨・高力ボルトなど論文も多数。鉄骨業界に精通し、全構連の発展に寄与する。
私がH教授と初めて会ったのは、85年のK出版大阪勤務時代。西日本地域の溶接H形鋼製作会社で構成する任意団体「ビルトH協議会(BH協議会)」が鉄骨部材加工の工場認定取得のため全構連認定関係者とのヒアリングのためBH協議会代表らと上京・同席した時であった。H教授は全構連工場認定制度・中央審査委員会副委員長職として参加されていたと、記憶する。そのH教授が開口一番に「あなた方のBH製作工場が、板(鋼材)三枚を溶接するだけなのに、どうして部材加工工場認定制度が必要なのか」との発言に、居並ぶBH協議会メンバーは予想もしない質問に顔を見合わせた。
これに対して、BH協議会代表は「先生の指摘された板三枚(フランジ板二枚、ウェブ板一枚)のストレートものだけでなく、テーパー付きや水平ハンチ付き、板厚違いの板継ぎなど様々であり、ロールH形鋼とはことなり異形物が多くなっている。協議会として規格・品質の統一化に努めていますが、西日本の会員十数社ではBH業者の規格精度、溶接部の品質向上に繋がらない。工場認定化すれば、未組織工場も含め品質向上すると確信している」と工場認定の意義を説明された。
H教授の唐突な発言から始まったヒアリングは熱心な討論となり、結果てきには充実した内容になった。BH協議会メンバーも手応えを感じたようだった。「H先生の発言に驚いたが、かえって話しやすくなった。胸襟を開いての討論で理解が深まった」と確信を得たようだった。H教授の発言は本気度を試す手段のようにも思えた。後に、BH及び4面BOX製作工場の部材工場認定が実現する。
私は88年春に東京本社勤めになり、鋼構造専門の「T技術」誌を創刊の編集長となる。その年の夏、「プレス鋼板タブの取り付け不良問題」を議題とする討論会が都内であり参加した。出席者は、討論開催を求めた千代田区都市開発局建築指導部のK課長をはじめ、学識者の立場でH教授、プレスタブの開発者のM建設のM氏、製造元、販売元の担当者と設計・ゼネコン構造技術者らが集まり、プレスタブによる不良施工事例と問題定義と解決策などの討論を交わした。
千代田区のK課長による不良鉄骨の事例から議論が沸騰する。どう解決するかとなり、喧々諤々の末、H教授は(プレスタブの使用を認める前提として)「このエンドタブが日本鋼構造協会の代替エンドタブ定義の範疇に該当するにしろ、もっとしっかりした実験データが必要だ。このまま普及していけば欠陥鉄骨の温床になる。それを防ぐには取り扱い説明講習会を開催し、受講者が年間500人ぐらい受講しなければ正しい使用法が理解されない。それが不可能なければ製造・販売を中止すべきだ」と、開発者、製造者・販売会社に厳しい条件を突きつけた。
<年間に500人の講習>開催の提言で、討論は講習の意義や啓発活動など積極論となった。その結果、開発者のM氏と製造元、販売元が使用実態調査と適切な販売方法を採ることと、取り扱い説明講習会を積極的に実施することを確約した。H教授の提言がトリガーとなる。
その年の秋にエンドタブ協会を設立し、「プレスタブ技量訓練講習会」を毎月1回程度の割合で実施された。その後、「エンドタブ施工講習会」となり、95年財団法人日本溶接技術センター内に「日本エンドタブ協会」と改組する。
「T技術」誌の89年6月号座談会「(自主認定から)10年たった工場認定制度と新時代への課題」の司会を建築界の大御所・F神奈川大学教授(後に、神奈川大学学長・理事長、東工大名誉教授)にお願いし、H教授にも出席して頂いた。ここでも冒頭、「10年経って認定制度が定着したと言われるが、私の疑問は<認定を取得工場がメリットを得たので定着なのか>、<工場認定制度とか認定工場と言った言葉が定着したのか>、または<設計者がグレード別を最も相応しく指定することが定着したのか>そのへんが曖昧としている」と疑問を呈する。鉄骨ファブの経営や考え方を熟知した発言である。
鉄骨ファブ業界をこよなく愛してやまないH教授ゆえに厳しい苦言に、全構連事務局は「もっともなことばかりで反論する余地がない」(U工場認定部長)と納得する。H教授の持論は、「品質管理・検査への努力姿勢よりも、設計やゼネコン担当者への隷属的な姿勢が問題と指摘する一方、サブコンになって、ゼネコンと共同による受注。言ってみれば共同企業体が実現できれば理想」であった。
そうした発言の背景にはH教授は全構連の工場認定には並々ならない思い入れがある。81年に建設大臣認定取得後、H教授ゼミ卒業生の二人を全構連事務局に技術職員として送り込み、工場認定への促進業務に従事する(後に一人がS金属工業に転職し、建設エンジニアリング事業部に配属)。
建築鋼材でのH教授は、冷間成形角形鋼管のアール部塑性変形や電炉鋼板の品質にも問題を提起しており、「厚鋼板のプレス加工には熱間成形が望ましい。鉄骨主要部材には電炉鋼材を極力避けるように指導してきた」と語っていた。鉄骨製作だけでなく、使用する鋼材にも厳しいものがあった。
90年代に入って、プレスコラムのアール部が割れたが事例が起きた。さらに、ダイアフラムに使った電炉厚鋼板の二番割れ(開裂鋼板)が多発した。いち早く対応したのがH教授で、O氏(鋼材倶楽部建築専門委員長、元新日鉄・建材開発技術部専門部長)も加わり、鉄骨に使われていたSS材(無規格)、SM(溶接構造用規格)から<鉄骨専用鋼材のJIS化>の働きかけによって、94年6月1日にJIS規格の「SN鋼材(建築構造用規格)」が制定された。まさにH教授の尽力によるものである。
H教授の鉄骨業界に対する一連の厳しい苦言は、学内の組織改革、学生主導などでの体験からくるものと思われる。硬直した組織や他力本願的な運営、無責任な言動など組織にありがちな弊害に対するある種の論法となっている。その論法が奏効してきた。学内でも厳しい反面、根はやさしいく面倒見のある一面が学生や研究生に慕われる所以である。
専門雑誌編集者としては、鉄骨業界に影響力があるため頻繁にH教授を訪問する。同年配だが接見では、かなり緊張していたことが今でも蘇る。同じ階の一回り年配のH教授は温厚な好々爺的存在で相談ができた。千葉工大の両H先生には編集・企画などで大いにお世話になりました。

【中井 勇】