スノウチニュース<№154>平成29年9月

【鉄骨需要月別統計】
7月は44万4,900トン(前年同月比12.5%増)
17暦年1~7月累計182万3,100トン(前年同期比0.0%)

 国土交通省が8月31日発表した「建築物着工統計調査」の2017年7月着工総面積計は11,571千平方メ―トル(前年同月比4.5%増)の前年同月比は2ヵ月連続増で、1万平方メートル超えは4ヵ月連続となった。
 ▽建築主別では、公共建築物が853千平方メートル(同33.3%増)の同6ヵ月ぶりの大幅増となった。民間建築物は10,718千平方メートル(同2.8%増)と同2ヵ月連続増で、1千万平方メートルを4ヵ月連続で維持した。
 ▽用途別では、居住建築物は7,012千平方メートル(同2.7%減)と同1ヵ月で減少に転じた。非居住建築物も4,559千平方メートル(同18.0%増)と同2ヵ月連続増の二桁増となった。
 ▽構造別では、鉄骨系のS造が4,341千平方メートル(同11.0%増)と同2ヵ月連続増となった。SRC造は216千平方メートル(同148.5%増)と同5ヵ月ぶりの大幅増となった。一方、RC造も2,027平方メートル(同10.1%)の同2ヵ月連続増となった。木造は4,909千平方メートル(同3.4%減)の同2ヵ月連続の減少となった。
 ▽鉄骨需要換算では、S造は43万4,100トンとなり、40万トン超えは4ヵ月連続で推移している。また、SRC造は1万0,800トンとなり、1万トン超えは5ヵ月ぶりとなった。鉄骨計では前年同月比12.5%増の44万4,900トンとなり、前月比では9.0%の減少となったものの、業界筋では秋口から増加基調が見込まれている。
 17暦年の1~7月ではS造が前年同期比ほぼ同じ178万4,400トンとなり、SRC造では同0.1%減の3万8,700トン。鉄骨計では182万3,100トン(同0.0%)となり、前年とほぼ同じとなった。

16年7月-17年7月 鉄骨需要量の推移

年/月 S 造 前年比 SRC造 前年比 鉄骨造合計
16/7 391,000 -13.4   4,350 ‐82.3 395,350
8 495,400 18.4   2,400 ‐60.7 497,800
9 439,900 7.4   9,000 92.5 448,900
10 401,400 0.2   5,700 -61.0   407,100
11 415,400 4.5   3,250 -15.7 418,650
12 407,600 7.6   8,700 -41.0 416,300
17/1 426,500 21.9 6,400 -30.5 432,900
2 399,800 3.6 23,500 35.4 423,300
3 339,200 -1.9 5,450 -63.0 344,650
4 435,200 22.3 9,700 -6.6 444,900
5 435,600 -6.8 8,800 -55.7 444,400
6 479,500 5.2 9,400 -1.2 488,900
7 434,100 11.0 10,800 148.5 444,900

(国土交通省調べ)

【鉄骨業界展望】
鉄骨建築の図面決定の遅延が常態化に
CAD、BIMなどIC技術の対応策も

 鉄骨ファブリケーター業界(鉄骨工事業)は、鉄骨需要と受注価格の安定に反し、技能者不足と短工期が深刻化している。年間産量1万トン前後を供給するHグレードファブは、その対策に苦慮している。首都圏をはじめ主要都市部のオフィスビル、宿泊施設や庁舎・病院など公共施設の建設需要が相次ぎ、鉄骨ファブの山積みを半年、1年先まで確保されたが、最も苦慮している問題は、直面する工事の図面決定遅れにより生産調整が決まらない状況が常態化することである。なぜ図面遅れやチェックバックが起きるのか、またその対策を探ってみた。

◇    ◇

 新耐震基準以降に起きた構造計算書偽装問題(2005年11月)から建築主が鉄骨建築物を確認申請するには都道府県(建築主事)または指定構造計算適合性判定機関の第三者による構造計算適合性判定(ピアチェック)が義務付けられこともあり、一般社会でも建築構造計算や建築の耐震性などクローズアップされた。その一方、建築業界にとっては手続きが煩雑となり、かつ延滞問題が著しくもなった。さらに、ファブでは設計事務所・建設会社から製作に落とし込む施工図(詳細図・工作図)が必要になるが、元になる図面が決まらないため着手できない。
 昨今の構造的な問題としては、建築物の高層化、大型化、複合化・多様化や、またRC造、PC造とS造の混合化や大胆なプロティ構造やトラス構造など斬新デザインが増えている。そのため鉄骨ディテールを複雑化し、特殊鋼選定、架構部材の取り合いの決定や設計変更による図面遅れ(承認・決定遅延)のおもな要因とも指摘されている。
 建築設計(図面)は、デザイン(意匠)とアーキテクチャー(構造)との共同で成り立つもの。多くは意匠設計が先行し、構造設計によって実現する意匠設計先行型。他方、施工可能な構造デザインがあって、意匠設計が実現する構造技術先行型もある。意匠設計と構造設計が計画初期から協働し、実現する意匠・構造協働型もある。
 その他には、大手ゼネコンに多く見られるデザインビルド(設計・施工)で、ゼネコンが一括して遂行するので、意匠・構造設計も含めた意匠・構造融合型である。設計・施工の場合は、意匠・構造・施工・管理など組織上は別であっても企業一体のため、施工性や経済性、工期、品質管理などが包括されるため効率性は高い。そのため短工期物件の商業施設や工場・倉庫施設から大型の公共施設でも増加傾向にある。

◇    ◇

 「デザイン設計は構造設計(計算・解析・架構)によって構造図面が決まる。複雑な建築構造の場合、意匠設計者と構造設計者で協働することが望ましいが、中堅設計事務所クラスでは構造設計者がいないため構造設計業務を外注化している」(N設計事務所・構造設計者)。アウトソーシングされた設計図面が建設会社からファブに流れる手順であるため、ファブは図面のやり取りで直接に設計者や施工管理者との意思疎通も難しくなる。
 一方、工事発注側のゼネコンとしては、設計事務所からの図面情報の不備が多くなっていると指摘する。「ファブが作成した施工図を設計者らに確認するまでの時間がかかる。構造はRC造やPC造もあり、鉄骨に精通していない設計者も多い」(ゼネコンT社・技術部構造技術者)。経験豊かな団塊世代が去ったゼネコン業界にも構造技術者も工事所長クラスの管理技術者不足もあり、ひとりの所長が複数工事を担当するなど能力低下につながり、ある面でファブ任せになっている。こうした背景もあり、製作工期に柔軟性のある設計・施工物件を重点に置く傾向がますます強くなっている。
 ファブ側としては「(構造設計不足や外注化が)図面遅れの原因でもあり、不完全な図面をわれわれのチェックにより、設計事務所との確認や承認が二度手間、三度手間となっている。工事現場は(納期日を)待ってくれないため、しわ寄せはファブにくる」(関東地区のHグレードK社・工場長)。この事態が常態化しつつあるためファブでは図面担当者と工程担当者によるギリギリの工程調整となる。Hグレードファブでも施工図面などアウトソーシングの活用となる。ファブの中枢機能である施工図まで外注化となれば鉄骨ファブの分業化がさらに顕在化する。

◇    ◇

 図面対応のモデルケースとなる中部地区のHグレードT社を訪ねた。おもに首都圏の物件に対応している。設計部門は現寸場も含めかなりの広いスペースに、さまざまな機種のCAD(コンピュータ支援設計)、BIM(三次元モデル設計)を駆使し、施工図・工作図・原寸型紙・シナイなどを作成している頭脳機能である。ここでは、常にICT(情報通信技術)により、担当の設計事務所・ゼネコン構造設計と交信し、図面作業の効率をあげている。「生産効率を上げるには、しっかりとした施工図面づくりによるフィードバックやVE提言につなげ、手戻しや誤作など不良品を出さないこと。そのための設備投資と人材育成は惜しまない」(同社・M社長)。
 また、BIMの図面担当の育成については、「BIMを使いこなすには10年かかる。三次元で加構の納まりや修正したりするが、鉄骨ディテールや製作が分かってないと一人前にならない。基本は図面・現寸、製作・検査などの経験が必要だ」(同社長)と断言。とすれば、鉄骨ファブの図面担当者は「専攻構造建築士」「JSCA構造士」に匹敵する知識・経験が必要となるが、Hグレードファブの技術レベルは設計事務所もゼネコンも認める存在だ。
 また、図面遅れについてT社の見解は、「確かに短工期傾向だが、事前の調整・確認・承認を得なくては、全てファブの責任になるため、図面段階でICT含め人的交流を徹底的にしている。その延長線上で、工期・納期・追加工事なども事前承認を得ることでリスク回避ができている」(同社・工務部長)とICT効果を語る。
 工事物件の進行をスムースにするには、「設計・施工分離方式と、設計・施工一括方式に大別される。どちらがファブにとってメリットかではなく、どうしたら工事図面が早期に決まり、施工図作成・製作着手ができるかは、事前の綿密な協議とIC技術・人的情報交換で遅れても対応策は講じられるもの」(同工務部長)と語る。工事毎に異なる条件に対応するには技術力に裏付けられた明確方針と積極的な対応策が解決のカギとなる。

【建築関連統計】
日建連7月受注額1兆0,916億円(前年同月比16.4%増)
民間工事額8,247億円(前年同期比19.4%増)

 日本建設業連合会(日建連)が8月25日に発表した会員企業96社の2017年7月受注工事総額は1兆0,916億3,800万円(前年同月比16.4%増)となり、前年同月比で3ヵ月ぶりに増加し、1兆円台を確保した。うち民間工事は8,247億2,700万円(同19.4%増)で、同2ヵ月連続増となった。一方、官公庁工事は2,530億7,300万円(同8.8%増)の同1ヵ月で増加に転じた。
 国内工事の受注が1兆0,785億0,800万円(同16.4%増)となり、同3ヵ月ぶりに増加となった。民間工事は8,247億2,700万円のうち、▽製造業が1,345億2,600万円(同31.2%増)となり、同1ヵ月で大幅増に戻った。▽非製造業が6,902億0,100万円(同17.4%増)の同2ヵ月連続増となった。
 官公庁工事は2,530億7,300万円のうち、▽国の機関が1,568億7,500万円(同9.1%増)の同1ヵ月で増加に転じた。▽地方の機関が961億9,800万円(同8.3%増)の同5ヵ月ぶりに増加となった。▽その他が7億0,800万円(同79.0%減)の同3ヵ月ぶりの大幅減となる。なお▽海外工事は131億3,000万円(同18.3%増)の同6ヵ月連続増となった。
 17年7月の地域ブロック別では、▽北海道495億6,900万円(前年同月比29.4%増)の前年同期比2ヵ月連続増。▽東北1,029億5,200万円(同12.0%増)の同6ヵ月連続増。▽関東5,220億1,900円(同11.3%増)の同3ヵ月ぶりの増加。▽北陸324億3,900万円(同2.7%増)の同4ヵ月連続増。▽中部1,133億2,100万円(同66.9%増)の同2ヵ月連続増。▽近畿1,237億1,800万円(同8.4%減)の同2ヵ月連続減。▽中国492億4,400万円(同80.3%増)の同1ヵ月で増加に転じた。▽四国128億9,000万円(同8.6%減)の同2ヵ月連続減。▽九州793億3,200万円(同40.0%増)の同3ヵ月連続増となった。地域ブロックにおいて前年同月比で増加は北海道、東北、関東、北陸、中部、中国、九州の7ブロックとなり、減少は近畿、四国は2ブロックとなった。

7月粗鋼生産858.8万トン(前年同月比4.3%減)
6月普通鋼鋼材建築用49万6,299トン(同0.4%増)

 日本鉄鋼連盟が8月23日に発表した2017年7月の鉄鋼生産は、銑鉄、粗鋼、熱間圧延鋼材のいずれも前月比では増加したが、前年同月比では減少した。銑鉄生産は653.3万トン(前年同月比5.8%減)と前年同月比で6ヵ月連続減。粗鋼生産は858.8万トン(同4.3%減)となり、同3ヵ月連続減となった。
 炉別生産をみると、▽転炉鋼が657.4万トン(同6.9%減)と同3ヵ月連続減、▽電炉鋼が201.5万トン(同5.6%増)と同10ヵ月連続増となった。鋼種別生産では、▽普通鋼が650.5万トン(同6.6%減)と同3ヵ月連続減、▽特殊鋼が208.4万トン(同3.8%増)と同15ヵ月連続増となった。
 熱間圧延鋼材(普通鋼、特殊鋼の合計)生産は746.3万トン(同4.7%減)と同3ヵ月連続減となった。普通鋼熱間圧延鋼材の生産は579.6万トン(同6.5%減)と同5ヵ月連続減となった。品種別では、▽条鋼類は138.9万トン(同5.7%減)と同3ヵ月連続減、▽鋼板類は435.9万トン(同7.1%減)と同6ヵ月連続減となった。
 主要品種の生産内訳をみると、▽広幅帯鋼が361.9万トン(同4.8%減)と同3ヵ月連続減、▽厚板は68.1万トン(同17.3%減)と同8ヵ月連続減となった。一方、条鋼類では▽小形棒鋼が70.1万トン(同1.3%増)と同月3ヵ月ぶりの増加、▽H形鋼は28.5万トン(同7.1%減)と同2ヵ月連続減、▽大形形鋼は5.8万トン(同4.9%減)と同2ヵ月連続減、▽中小形形鋼は7.7万トン(同6.5%減)と同2ヵ月ぶりの減少となった。また、特殊鋼熱間圧延鋼材の生産は166.6万トン(同2.4%増)と同15ヵ月連続増となった。
 なお、6月の普通鋼鋼材用途別受注量による建築用は49万6,299トン(同0.4%増)となり、▽非住宅用34万8,837トン(同0.2%減)、▽住宅用14万7,462トン(同1.9%増)となった。
 建築用の17暦年上期(1~6月)累計は315万4,531トン(前年同期比4.3%減)となり、非住宅は220万6,118トン(同1.8%減)、住宅は94万8,431トン(同9.7%減)となった。

6月溶接材料の出荷高2万2,429トン(前年同月比8.5%増)
17暦年上期の出荷高12万0,709トン(前年同期比6.4%増)

 日本溶接材料工業会がまとめた2017年6月の溶接材料生産・出荷実績によると、生産高は前年同月比で8.4%増の2万2,663トンと5ヵ月連続増。また、出荷高でも同8.5%増の2万2,429トン6ヵ月連続の増加となった。また、在庫高は21.7%減の1万6,843トンとなった。
 主要品種の生産高をみると、▽ソリッドワイヤ(SW)は8,701トン(前年同月比9.7%増)の同2ヵ月連続増となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)は7,969トン(同1.3%減)の同1ヵ月で減少に転じた。▽被覆アーク溶接棒は2,996トン(同28.9%増)の同3ヵ月連続増。その他を含む生産高は2万2,663トン(同8.4%増)となった。
 出荷高は、▽ソリッドワイヤ(SW)が9,041トン(同19.6%増)の同5ヵ月連続増。▽フラックス入りワイヤ(FCW)は7,593トン(同2.3%減)の同2ヵ月連続減。▽被覆アーク溶接棒は2,798トン(同14.3%増)の同6ヵ月連続増。その他を含む出荷高は2万2,429トン(同8.5%増)となった。
 在庫高は、▽ソリッドワイヤ(SW)は5,303トン(同39.7%減)となった。▽フラックス入りワイヤ(FCW)は5,926トン(同1.0%減)。▽被覆アーク溶接棒は2,786トン(同29.4%減)となった。 その他を含む合計在庫高は1万6,843トン(同21.7%減)となった。
 17暦年上期(1-6月)の生産量は12万4,457トン(前年同期比3.7%増)、出荷量は12万0,709トン(6.4増)となり、それぞれ3期ぶりに前年同期比実績を上回った。
 一方、財務省による6月の輸入溶接材料は、▽ソリッドワイヤ(SW)は2,622トン(前年同月比27.3%増)、▽フラックス入りワイヤ(FCW)は2,676トン(同35.7%増)、被覆アーク溶接棒は99トン(同29.7%増)となり、その他を含む合計は5,459トン(同27.3%増)となっている。
 なお、17暦年上期(1-6月)の溶接材料輸出・輸入量は、輸出が1万6,680トン。輸入が2万8,735トン。

【建築プロジェクト】
横浜市民病院三ツ沢球技場隣地に移転工事
S造7階建て6.7万平方米、20年度開院

 横浜市立市民病院の移転建設工事(神奈川区三ツ沢西町34-10ほか)が着工した。現病院施設(保土ヶ谷区)は建設から約30年経過し、施設老朽化や増築などによる狭あい化などから移転新築となった。新病院は現行の施設規模を維持する。設計・監理は佐藤総合計画。施工を戸田建設・松尾工務店・馬淵建設JVが総額146億5,000万円(建築工事、税別)で受注した。9月から診療棟の建設に着手し、2020年1月の完成を目指す。
 横浜市医療局病院本部によると、移転先は三ツ沢公園と隣接したニッパツ三ツ沢球技場の一部地区神奈川区と西区にまたがる敷地約3万平方メートル、建築面積は約10,155平方メートル(エネルギー棟を除く)となる。
 ▽診療棟はS造・一部SRC造・RC造、地下2階・地上7階・塔屋1層建て、▽利便施設棟S造、2階建て、▽付属棟4棟含め(エネルギー棟を除く)、総延べ床面積約6万6,798平方メートルである。想定している外来患者数は1日1,200人、33診療科のいずれも現状と同じ機能となる。新病院の診療棟と道路を挟んで管理棟(西区宮ノ谷25-6)とに分けられ、管理棟はS造、地上4階建て、同5,866平方メートルの規模で、18年度に建設着工予定で別途発注となる。
 診療棟の外来フロアとなる地下1階と1階には小児外来や救命救急センター、がん検診などを配置。2階が救急病棟、集中治療室(ICU)などで、3階から7階が入院病棟で、病床数650床。病室の多床室は6床から4床に減らし、1床当たりの面積を拡充する。北側にある同球技場からの歓声や照明の影響が少ないよう、病棟や外来を南側に配置する。100台分あった駐車場は医療従事者ら職員用を含め400台分増やすことになる。

【雑論・正論】
業界新聞のネット現象

 居酒屋での親友との会話で、トランプ大統領のツイッター多発論からSNS(ソシアルネットシステム)功罪論に及び、親友は「ニュースのネット化は一般紙から業界紙まで及んでいるが~」と業界紙のネット化の話題を振ってきた。「紙媒体の衰退を電子媒体で補おうとする魂胆がみえ見えだ。でもね、ネット料金が高い」と皮肉交じりの指摘だ。
 小生、35年以上も業界紙・専門誌一筋にしてきただけに<紙媒体>に対する思い入れは大きい。インターネット万能時代を迎え、「歩いて、書いて、刷って」の世界で競ってきた者からすれば、今のネットニュースは隔世の感がある。ましてや発行部数の評価や郵送の手間もないのであれば業界紙にとっても実に有難いツールである。
 業界紙の第一義は、記事内容も大事だが、何よりも媒体存続である。そのため購読と広告による収益・採算性を如何に上げるか。限られた業界の中で、競合紙との記事評価で競うことの次に購読の拡張や広告売上高にある。スクープやトップニュースを書く記者は勿論だが、購読の取れる記者、特集記事や広告企画で勝負できる記者は大いに評価され、特集広告や定枠広告の取れる営業マンは一目置かれる。要は「どれだけ稼げる」なのである。
 業界紙評価も発刊回数と発行部数でも決まる。業界を代表する業界紙は、日刊発行の大判(ブランケット判、15段割り)となる。業界規模や競合紙が多いと週刊・旬刊紙などもあり、タブロイド判やA4判などさまざま。建設業界の場合は全国紙から地域紙まであり、<ひとり親方ならぬ、ひとり編集長>まであり、群雄割拠の世界である。
 また、紙媒体の場合は発行部数が評価のバロメーターでもある。発行部数と広告掲載料金とがリンクしており、部数イコール広告効果(訴及力ともいう)になる。この公表部数は、一般紙の場合は日本新聞協会が公表し、業界紙などは日本ABC協会加盟であれば公表される。ABC協会に加盟していない業界紙や媒体は自表部数となるため不透明なものになる。クライアント(広告主)を納得させるには実部数に高下駄を履かせた似非部数となる。
 業界紙の弱点(呪縛)は広告収益が7割以上と大きいため、どうしてもクライアント指向が強くなり、提灯記事やパブリシティー記事が多くなりがちになる。次の呪縛は媒体の配達問題である。有力日刊紙の場合は新聞販売店に委託し翌朝配達であるが、大半は第三種郵便のため、中1~2日かかるのと郵送料負担が大きいことである。
 ネット化した場合は、2つの呪縛から解放され、記事によってアクセス数が大きくなれば<バナー広告>も増え収益にもつながる。この先、紙媒体が消えてネットニュースに集約されるのか、それとも残るのかを注視したい。

【加藤 文雄】